第8話 アイドル達は転校生

 石膏ボーイズは職員室の先生方にも好意的に受け入れられた。

 誰も石膏像だからなんて気にしていなかった。気にする茉莉香がおかしいのだろうか。

 謎は深まるばかりだったが、考えても答えの出る問題でも無かった。

 則美も気にしていないし、考えないようにしよう。

 ともあれ、担任の先生と一緒に教室に行くことになった。

 先生は教壇に立って生徒達に呼びかけた。

 則美は世話係ではないので自分の席につき、茉莉香は足元に石膏ボーイズを乗せた台車を置いたまま、先生の隣に立って聞いていた。


「今日は転校生を紹介します。みなさんお待ちかねのスーパーアイドル達です。ほら、石田さん。一人づつ持ち上げて挨拶をして」

「はい」


 何でこんなことをしているんだろうと疑問には思ったが、茉莉香は先生に言われた通り一人づつ持ち上げることにした。

 茉莉香が何も言わなくても石膏ボーイズは自分達で挨拶をすることが出来た。

 そのたびに教室が盛り上がった。


「あれが石膏ボーイズか!」

「かっこいい!」


 かっこいいのか。

 いまいち実感が湧かないが、みんな感動しているようだった。

 紹介が終わって先生は席を探した。


「えーと、石膏ボーイズさん達の席は……空いてませんね」


 ちょうど空いた席が無い。

 こんな時は用意しておく物だと思ったが、現実はそうでもないらしい。

 それともたまたま手配が行き届いてなかっただけか。

 何しろ四体もいて、それも石膏像なのだから。


「まーちん、今俺達がマイナーだから用意されてないと思っただろう」

「思ってませんよ」


 本当に思ってないことを突っ込まれて茉莉香は弁解する。

 生徒達がざわざわと騒いでいると、則美が声を上げた。


「誰でもいいからどきなさいよ。彼らは石膏ボーイズなのよ」

「まあまあ」


 アイドルを優先しようとする則美の態度を先生が宥めようとする。

 則美にとってはクラスの生徒達など有象無象に過ぎない。

 そう見下すような態度が無ければもてるだろうにと茉莉香は思うのだが、石膏ボーイズを前にした則美にはクラスメイトに気を遣うつもりは無いらしい。

 茉莉香は苦笑いするしかなかった。

 助け舟は石膏ボーイズから出た。


「僕達は後ろの棚でもいいよ」

「偉い奴は後ろに座るもんだ」

「僕は窓際の明るいところがいいな」

「僕は廊下側の日陰がいいよ」

「はいはい」


 茉莉香は言われた通り台車を押して、石膏ボーイズを教室の後ろへと運んで棚に乗せた。

 喋らなければ普通の置き物のようだ。

 教室に四体の石膏像というのもどうかと思うが。

 則美は不満の様子だったが、石膏ボーイズの決めたことに異を唱えることはしなかった。


「石膏ボーイズ様、申し訳ありません」


 則美は謝罪するが、石膏ボーイズは気にしていなかった。


「いいってことよ」

「僕はここが気に入ったね」

「高めで、みんなが見下ろせて偉くなった気分だ」

「客席が一望出来るというのは良いね」

「そうですか?」


 好意的な意見に則美の表情が明るくなった。

 何だかんだで彼らは大人なんだなと茉莉香は思った。


「はい、授業始めますよ。席について」


 先生の指示で茉莉香と則美は席につく。

 後ろの石膏像が気になったが、茉莉香はすぐに日常の授業に慣れて気にしなくなっていった。

 


 授業が終わって休み時間になって、則美は真っ先に石膏ボーイズに声を掛けていた。


「ご不便はありませんでしたか?」

「良い物が見れたよ」

「これが高校生の授業なんだね」

「僕は寝てたよ」

「僕も」

「まあ、そうですか」


 とか言っている間に周囲に人垣が出来ていった。

 みんな話しかける機会を伺っていたらしい。則美が話しかけたことでスイッチになったようだ。

 次々と転校生やアイドルにありがちな質問をする。

 マイクより重い物を持ったことがない則美はすぐに力負けして輪の外に追い出されてしまった。


「もう、あたしが話していたのにー」


 茉莉香は賑わっている様子を自分の席から見ていた。

 輪に入れなくなった則美は当然のようにそんな茉莉香の席にやってきた。

 茉莉香は顔を上げて話しかけた。


「本当に人気があるんだ」

「当然でしょう。石膏ボーイズ様なんだから」


 彼女の見立ても案外外れてはいないらしい。

 そんなに人気ならクラスのみんなも世話係に立候補すれば良かったのにと思ったが、見るのは好きでも世話をするのは別かもしれない。

 茉莉香はペットを飼う気分でそう思ったのだった。

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