第7話 美術室の朝の光景
美術室に行くとすでに校長先生と里がいた。
茉莉香と則美は入っていく。
「おはようございます」
「おはよう」
「朝の光と石膏像。いい」
校長先生は偉そうに腕組をして立っていて、里はもう立てたキャンバスに絵を描き始めていた
石膏像は昨日と同じテーブルの上に並んでいた。
まさか喋らないだろうなと思っていると声を掛けてきた。やはり昨日のことは夢ではなかったのだ。
石膏像は喋る。彼らは石膏ボーイズだ。
彼は不満そうに言った。
「遅いぞ、まーちん」
「まーちん?」
耳慣れない呼び名に茉莉香は首を傾げる。石膏像は補足説明してきた。
「茉莉香だから、まーちんだろう」
「えーと、マルスさんですよね」
茉莉香は昨日の自己紹介を思い出して言う。
ヘルメットを被った人はマルス。これは分かりやすかった。
他は何か似たような髪型で分かりにくかった。
昨日は紹介で名前を聞いただけで、積極的に話して名前を呼んでいかないと忘れてしまいそうだ。
茉莉香はトークすることに決めた。
マルスは少し言い淀んだ。
「……俺はマーチンと……呼ばれたことはないぞ」
「マーチン」
「マーチン」
「お宅の名前マーチンだってよ」
仲間の石膏像達が囃してくるのをマルスは一蹴する。
「うるさい。とりあえず遅かったな」
「時間より早いですけど」
「それでも僕達は待ちくたびれたの」
ヘルメスは本当にくたびれているようだった。石膏像なのに態度というか気配に出ていた。
早めに家を出たのに酷い言われようだ。
時間を無駄にするわけにはいかない。
茉莉香は校長先生に向かって訊ねた。
「それで今日は彼らをどうするんですか?」
「うむ、今日はクラスのみんなに彼らを紹介して欲しいのだよ」
「クラスのみんなに?」
茉莉香は首を傾げる。紹介してどうなるというのだろう。
則美も目をパチクリさせていた。
校長先生は説明した。
「忘れているかもしれないが、彼らは転校生だ。高校生なのだよ」
「本当に高校生なんですか?」
高校生どころか人にすら見えないが。
「君の目にはどう映ってるのかな?」
呑気な声でメディチにそう聞かれても困ってしまう。代わりに則美が答えてくれた。
「とても大人びて見えます。それでいて、肌がすべすべでみなさんとてもお若いですね」
「高校生だからね」
「当然さ」
「そういう設定だからね」
「設定?」
「良い石膏像が来てくれた」
里の感想も好意的だ。茉莉香も適当にうなづいておいた。
校長先生が動く。
「それじゃあ、茉莉香君。彼らを教室まで運んでもらえるかな。あ、その前に職員室に行って先生方に挨拶をしてきて」
「はい」
早めに来たのに時間が経つのは早い。
茉莉香は4つの石膏像を台車に乗せて職員室へ向かった。
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