第4話 アイドル達の着く場所

「美術室?」

「そこはどんな場所なんだい?」

「僕達にふさわしい場所なのかな?」


 石膏ボーイズが矢継ぎ早の質問を繰り出す。

 里は答える。美術部員としてしっかりと。


「美術室は美の叡智の結集する芸術の都です」

「よし、そこにしよう」


 どうやらその説明で石膏ボーイズは納得したようだ。

 茉莉香にとってはどこでもいい。台車を押して運ぶことにする。

 則美がかがみこんで視線を合わせて石膏像に話しかけた。


「落ちてぶつけたところは大丈夫ですか? メディチ様」

「僕なら平気さ。これぐらいの死線は何度も潜り抜けてきたからね」

「俺達は強いからね」

「ドラゴンが来ても遅れは取らないさ」

「へいきへっちゃら」

「まあ、頼もしい」


 則美は石膏像と楽しそうに喋っている。

 味方だと思っていたのに正直裏切られた気分がして茉莉香は辛い。

 まあ、則美は元からお世話係の地位を争った敵だったわけだけど。

 それでも何だか泣きそうになってしまう。

 茉莉香が感情を忘れようと台車を押していると、則美は顔を上げて言ってきた。


「もう乱暴なことはしちゃ駄目よ、茉莉香。石膏ボーイズ様はスーパーアイドルなんだから」

「そう、僕達は」

「はいはい、スーパーアイドル様ね」


 石膏像達が言いそうなことを先に言って、茉莉香は美術室について扉を開けた。

 台車を押して石膏ボーイズを運び入れる。


「汚い場所だな」

「でも、美は感じるね」

「住めば都とは言うね」

「落ち着いた場所だ」

「茉莉香、彼らをテーブルの上へ」

「はいはい」


 なぜ美術部員の里に命令されなければいけないのかとは思うが、ここは彼女の部室なのだから仕方ないのかもしれない。

 いずれにしろ、石膏像に比べたらたいしたストレスではない。茉莉香は言われた通りに四体の石膏像をテーブルの上に並べた。

 則美はうっとりとした顔を近づけて石膏像達を眺めた。


「素敵です、石膏ボーイズ様」

「まあね」

「僕達は人気アイドルグループだからね」

「溢れ出るオーラは消せないね」

「則美、そこどいて。石膏像を描けない」

「むう」


 則美はむっとした顔を見せるが、逆らう事はしなかった。素直に横にどく。

 さすがの則美でも美術室で美術部員に逆らう気は無かったようだ。

 則美はアイドル達のお世話係でもないし、美術部員でもない。完全な部外者として追い出されても文句は言えない立場だ。

 それは弁えているようだった。

 則美は不満そうな顔で茉莉香に耳打ちしてきた。


「ちょっと茉莉香。あの里さんって言う人、感じ悪いんじゃないの」

「そうだね」


 茉莉香にとってはみんな同じようなものだと思ったが、則美が親しく話しかけてきてくれたのは嬉しかった。

 里はスケッチに集中していて、こちらに目を配ってくることはなかった。

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