第3話 アイドル達の行く場所
「ふうふう……」
肩を荒げながらも息を落ち着かせ、茉莉香は石膏像を踏もうとしていた足を止めた。
「もう大丈夫。大丈夫だから」
背後から抑えようと掴んでいた則美の手を叩いて離してもらう。
「もう気は済んだかい?」
足元に転がっている石膏像は顔色一つ変えていない。石膏像だから当然かもしれないが。
トラックの荷台に乗ったままの石膏像達も落ち着いた呑気な顔で見つめていた。石膏像だから当然かもしれないが。
「もう終わりか。もっと血沸き肉躍りたかったのに」
「もっと派手なバトルを見せないと視聴率取れないよ」
「スーパーサイヤ人にはなれないの?」
石膏像達は次々と勝手なことを言ってくれる。
もういい。もう気にしたら負けだ。
茉莉香は気にしないようにして自分の仕事をすることにした。
4つの石膏像を持ち上げて台車へと乗せていく。
「凄い茉莉香。力持ち」
則美の賞賛も軽く聞き流す。
茉莉香が力持ちなのではなく、マイクしか持ったことのない則美が無さすぎるだけだろう。
それに褒められて嬉しい分野でもない。
石膏像はそれなりに重たいが、茉莉香にとっては無理のある重さでもない。
「そうっと置いてよ。そうっと」
「勢いを付けてガシャコンと置かないでよ」
「僕達は繊細なんだからね」
「はいはい、分かってますよっと」
石膏像達の声も適当に聞き流し、乗せ終わる。
校長先生がトラックの運転手に合図を送ると、トラックはゆっくりと発進していった。
見送って、茉莉香は校長先生に訊ねた。
「それでこれはどこに運んでおくんですか?」
その言葉に校長先生ではなく、石膏像達が答えてきた。
「これとは失礼だね、君」
「僕達は石膏ボーイズなんだよ。今をときめくスーパーアイドルなんだよ」
「そんな僕達の行く場所と言ったら、VIPルームに決まってるじゃないか」
「ゲームセンターでもいいよ。僕ダンスゲームが得意なんだ」
石膏像達はまた次々と勝手なことを言ってくれる。
「ダンスゲームが得意なんて素敵です」
則美は何だか感動の眼差しを送っているし、里はまだ石膏像の絵を描き続けている。
茉莉香は怒りを抑えながら頬を引きつらせ、全ての声を無視しながら再び校長先生に訊ねた。
「それで彼ら素晴らしきアイドル達をどこへお運びしておけばよろしいのでしょうか?」
「おい、台車が揺れてるぞ。丁寧に扱ってよ」
「むうう」
茉莉香は我慢しながら台車のハンドルを握る手から力を抜いた。
校長先生は考える。
「そうだねえ。どこに置こうかねえ。考えてなかったねえ」
おい、考えてなかったのかよと突っ込みそうになるのを何とかこらえる。
里が動いた。
「校長先生、石膏像は美術室にあるべきです」
「そうだね。それじゃあ、美術室へ」
どうやら里の一言で美術室に決まったようだった。
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