第14話 彼女は絶望し、彼らは思案する
雷が絶えず聞こえ、嵐の訪れを告げている。
暗雲立ち込める中、黒鴉は電柱の上にて、思案していた。
「酷なものよ。よもやこのようなことになろうとは──誰が予想しただろうか」
か弱き
一糸纏わぬ姿で傷つき、倒れた恋を介抱するため、神威と星霜、そして後から駆け付けた弟子の京介は、彼女の自宅を訪れたのだが。
家の中はもぬけの殻だった──所々に、恐らくは彼女の両親の血痕が飛散し、家具は木っ端微塵に破壊されていた。
どれほどの一方的な所業が行われたのか、推察するまでもない。
その光景を映したのは、意識を取り戻した少女の、絶望に染まる瞳。
震える唇から漏れる、悲鳴のような泣き声。
瞳から光が消え、暗く虚を湛えながら、涙を流すその有り様は……筆舌に尽くしがたい。
恋の両親の──少なくとも、頭部が半壊した──死体は見つからなかった。
あのジャームに連れ去られたのだ。
そのまま、恋は一言も言葉を発しなくなった。京介の制服の上着を羽織り、心ここに在らずといった風に、フラフラと震える足で我々の後をついてくる。
正直な所、あれだけ凄惨な経験をしてヒステリーを起こしても仕方ない状況だっただけに、この静かさは不気味とも思えた。彼女の心の傷が心配だ。
それでもなんとか、この
(しかし……気にかかるな)
絶望に沈む彼女の顔を案じながらも、この老鴉は少女への違和感を感じ取っていた。微かな、しかし、今までには無かった違和感。
(あの公園で何が起こったのか、問わずとも見れば分かるが、それにしても──)
塔のように積み上がっていた、恋がモルフェウスの力で錬成したあの家屋。さすがにあのままだと大騒ぎになるので、神威が咄嗟に亜空間を開き、全て破壊し粉々にして飲み込んだからこそ、分かるのだ。
あれは、土台に含まれる大気を全面使い、新たなる家屋を錬成していた。モルフェウスはその物質の構成に関係なく、サイズも関係なく新たな物質を錬成できる。
しかし、だ。
「うまく出来すぎじゃわい……あれを、恋が作り上げたというのか?」
下の家屋を潰さずに、絶妙なバランスを以ってして、構成要素を組み上げる。そのような芸当は、単なるモルフェウスの力では到底及ばぬ構成力だ。
それこそ、数ミリ違わぬ思考と集中力で臨まねばならない。
自分のような天才的な頭脳でも持たぬ限りは、不可能だ。
まさか──
老鴉の、濡れたような輝きの黒き翼。
その羽根ひとつひとつが、ざわり、と音を立てて逆立てられる。
「星霜。お主は……最初から気付いておったというのか?」
振り向かなくても、その冷たい気配で分かる。星霜は当然のような佇まいで、同じく電柱の上に立っていた。
彼は底知れぬ笑顔を浮かべ、恋の自宅を見下ろしている。
「さあ、なんのことだか、とんと存じ上げませんねぇ。ただ、あの娘が非力でありながら、力強い何かを秘めていることには、薄々」
「……分かっておろうな。恋への手出しは儂が赦さぬ」
「ふふふ。承知しておりますよ。ただ、私は興味を持っただけです」
刹那。
カッ──!
稲妻による閃光が辺りを照らし出す。
その光は小さな鴉と青年を、黒く黒く、どろりと浮かび上がらせた。
影となった青年の丸眼鏡だけが、怪しく輝いて──彼の愉悦が含まれた言葉が、底知れぬ響きとなって場に残る。
「オーヴァードの、新たな可能性に」
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