第6話 彼は彼の地に降り立ち、微笑む
時に──
UGNという大きな組織があるならば、対抗するオーヴァードたちの組織も存在する。それが、
とあるビルの片隅に、神楽町に位置するFHセル「
「君が呼ばれた理由がわかるかね? 『
「何かしら研究の一環かと思われますが……ご説明頂けますと助かりますねぇ」
彼は細い目をさらに細くさせ、にっこりと微笑んだ。
「この町に、ジャームが現れた。我々の管轄ではない者だ──既に死者を数名出している」
「ほう。たしか、『脳髄を吸う化け物』という事件でしたね。連続猟奇殺人事件として警察は捜査を進めている様子です。あまりにも猟奇的なため、警察はなんとかマスコミに知られないように進めているようですが、それも時間の問題ではありますな」
「さすがは
「本来、私はパソコンやインターネットは好かんのですが、お役に立てるならば。しかし──その事件と私、いや、FHに何の関係が?」
細い目の奥に見える、鋭い眼光がきらりと光る。
「この証拠隠蔽すらしない状態からして、既に理性はほとんど崩壊してしまっている。我々がスカウトするにしても、扱いにくい相手ではないかと推測されますが。ましてや、スカウトであれば私の出番は必要ないかと」
FHはジャームを肯定する。個々の欲望を満たすために手段は選んでいられないからだ。よって、エージェントにジャームが存在していることもある。ただし、それらは
「今回はスカウトではない。トライブリードの噂を聞いたかね?」
「ほう」
本来、オーヴァードに宿る能力は二種類だ。しかし、稀に三種類の能力を覚醒する人間が昨今、世界中から発見されつつあるという噂を聞く。それがオーヴァードの進化した形なのかはまだ分からないが、FH研究者の誰もが真相の解明に息巻いている。
もちろん、それは、同じく研究者であるこのエージェントも例外ではなかった。
「あの春日恭二殿も、検査の結果トライブリードの可能性が確認されたようですな。なんでも、一ヶ月前ほどに懐かしいイメージが突然頭に降ってきたのだと。具体的に何のイメージなのかは、本人により違うらしいですね。にわかには信じがたいことではありますが」
「左様。そして、今回のジャームは──その可能性が濃厚なのだ」
「なるほど。大方の事情は察しました」
『
「素晴らしい。トライブリードの検体が現れるとは。その検体を確保、回収後に詳細なる研究、ということでよろしいですか?」
「話が早く助かる。検体は神楽坂高校の生徒であることは既につかんでいる。期待しているよ、『
「了解致しました。それでは──あ、そうでした。これは確認なのですが……」
エージェントは帽子を目深に被りなおし、踵を返しつつ、振り向いた。
「検体は殺してもよろしいでしょうか? 私、手加減は昔から苦手でして」
「好きにしたまえ。君の研究資料を見るに、その方が検体も幸せかもしれん」
その言葉を聞いて。
『
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