友土梨奈 〜ユウドリナ〜

 ふと、彼女との出会った時のことを思いだした。


 一昨年の4月1日、中学校の入学式よりも一足早く和水プロダクションの八代プロジェクトに所属することになった私は言われるがままに案内されたプロジェクトルームで何度もオーディションであってはいるものの一度たりとも会話をしたことのない彼女、倉見モナと目が合った。


 モナは私と目が合うなり視線を床に落としてとてもこれからアイドルとして活動していくものとは思えないほど暗いオーラを放っていた。


「ねぇ」


 私がそう言ってもモナは一切反応しなかった。


「ねぇ、モナ」


 ほとんど初対面と言っても良いけれど、あえて距離を詰めた呼び方で呼んでもモナは床を見つめたまま一切反応しなかった。


「ねぇってば」


 今度は精神的に距離を縮めるのではなく物理的に距離を縮めてモナの肩を軽く前後に揺すりながらそう言うと、モナは私の想像を超えた高音で


「ヒャァァァァァ」


 と叫んだ。


「驚かすつもりではなかったのだけど、ごめんね」


「あ、はい、こっちも大きな声を出してごめんなさい」


「モナも今日からアイドルだよね? 私も今日からなんだ。これからよろしく」


「えっ? あの。よろしくお願いします」


 ざっと過去を振り返り、モナが私に異常なまでに依存をしてくるのは最初から馴れ馴れしく距離を詰めていった私が最大の原因だったのだと気付いてしまった。

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