テフス・リケチア 〜テフス・リケチア〜

「あの、川さん」


 聞こえるか聞こえないか自分でも判別できないほど小さな声量で名前を呼んだのに、川さんは笑顔で


「テッちゃん、どうしたの?」


 と返答してくれました。


「あ、う、えと、あの、その、何でもないです。何でも。はい。ごめんなさい」


「そっか」


 年上をおちょくっているとも取れる私の言動に対し、川さんは嫌な顔はもちろん嫌な雰囲気さえも醸し出してはいませんでした。


「テッちゃん」


「あ、え? あの、んと、その、えと、はい。何でしょうか?」


「仕返し」


 川さんは少年のように純粋に笑っていました。


「テッちゃん、今日はいつもと違ってユニットメンバーがいないお仕事だけど、僕が付いているから困ったときは遠慮せずに僕を頼ってくれていいからね」


 撮影前でガチガチに緊張をしている私を気にかけてくれている川さんの言葉で私は少しだけ緊張が解れたような気がしました。


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