草履川 〜ゾウリセン〜

 和水プロダクションは僕にとって3つ目の故郷だと思っている。


 本当ならば和水プロダクションを2つ目の故郷だと言いたいのだが、僕が今こうして活動で来ているのは五十嵐プロダクションという今は無き事務所での経験があってこそなので、その経験が僕にとって忘れ去りたいものであったとしても今は心の中に残り続けている五十嵐プロダクションが僕にとっての2つ目の故郷であると言って間違いは無かった。


 不意にそんなことを思いだしたのも1冊の本のせいだった。


 久しぶりに母親が僕に会いに来るというので母親の性格上真っ先に見ると思われる僕の部屋を片付けていると、伸から勧められるも全く読まずにただ溜まってしまっている本が陳列された本棚に、僕が五十嵐プロダクションにジュニアアイドルとして所属していた頃に母親が熱心に作り、1人暮らしを始めた僕への最初の仕送りとして送り付けて来たスクラップブックが他の本と共に置かれているのを見つけてしまった。


 懐かしさよりも嫌な思い出の方が強いそのスクラップブックを恐る恐る開いてみると、少年時代の僕が答えた全く面白味の無いインタビュー記事がまとめられていた。


 即座にスクラップブックを閉じた僕はそれをそっと本棚の後ろへ仕舞っておいた。


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