風呂野楓 〜フロノカエデ〜

2月7日


「あぁ、お酒が飲みたぁい」


 夕方のプロジェクトルームで大きな子供が自分よりも年下のアイドルが見ているというのに恥ずかしげもなく子供は絶対に言わない駄々をこねていた。


「プロデューサー、お願いっ。1杯だけ。いっぱいで良いから」


「繰り返した途端に発音が変わったけど?」


「その辺は気にしないで」


「どんなに頼んで来ても無理なものは無理だからね」


 風呂野楓さんは週末にミニライブが控えているため僕の権限で二週間ほど前から禁酒してもらっていた。


「1度飲んだら歯止めが利かなくなって2杯も3杯も飲むでしょ?」


「お恥ずかしながら」


「褒めてないから」


「ダァメ?」


「ダメ。その代わり、今日……明日の夜は僕が何かご馳走するからそれで我慢してくれない?」


 偶然か必然か、僕に視界に不意に映り込んできた花火に睨まれた僕は今夜、美咲と花火の3人で珍しく家族そろっての食事をする約束をしていたことを思い出し、今日を明日に訂正してそう告げた。

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