朔野和花 〜サクノノドカ〜

1月17日


「プロデューサー」


 アイドル、しかも僕のプロジェクトに所属している子に対してこんなことはあまり言いたくないのだが、僕を呼んだ朔野和花さんはとても気持ちの悪い笑顔を見せていた。


「聞いたよ。奥さんの仕事を自分の仕事を放り出して見に行ったって」


「この事務所は本当に噂が広まるのが早いな。でも、和花さん。その噂をどこで聞いたのかは知らないけれど、僕はすべき仕事を終えてから見に行ったのだから仕事を放り出してはいないからね」


 放り出したというなら宿題の途中だった花火の方だろう。説教の後にちゃんと終わらせていたみたいだが。


「い、嫌だなぁ、そんな事くらい分かっているよ。私は流れてきた噂をそのまま話しただけだから」


 和花さんは僕が目を合わせようとすると目を右へ左へ泳がせて僕の目を見ようとはしなかった。口ではこう言っているが、言われたことは何でも信じてしまい嘘を隠し通すのが下手な和花さんの事だから聞いた話をそのまま信じ込んで僕を笑いに来たのだろう。


「いつまでもそのままの和花さんでいてくださいね」


「え? 何のこと?」


 僕はあえて答えなかった。答えてもどうせ「そんな事は無い」と言われてしまうだろうから。

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