金花火 〜コンハナビ〜

1月16日


「なぁ、花火」


「何? 今、宿題中なんですけど」


 僕がこの金花火というとても可愛くて、優しい少女を他のアイドルと違い呼び捨てで呼んでいるのにはある訳がある。


「母さん元気?」


「お正月に一緒に居たからわかるでしょ」


 僕の実の娘である花火と妻の美咲は現在別居中であり、僕が知らない間に美咲は花火と共に旧姓である金を名乗り、美咲は本当に僕が朝から晩まで和水プロダクションで働いているのかを確かめるために花火を僕のプロダクションに正規のルートで潜り込ませてきた。


「別居中とはいえ家族なんだから自分の奥さんの事を毎日気にするのは当たり前の事だろ」


「お父さんは心配性なんだから。大丈夫。お母さんは私が毎日一緒に居てあげているから」


 どうやら花火は自分がロケで一晩家を留守にするときに僕が美咲を心配して家に帰っていることを美咲から知らされてはいないらしい。


「あっ、そうだ。朝、お母さんがお父さんに伝えるように言っていたことがあったんだった」


「伝えること?」


「うん。お母さんも今日からこの事務所で働くことになったって」


「はぁ?」


 親子だからきっとこの話を初めて聞いた時に同じようなリアクションをとったのだろう。花火はやっぱり驚くよねと言いたげな顔をしていた。


「川野さんの所で事務員さんとして働くって」


「ほう。そうか」


 良い事を聞いたと思った僕はそのまま川野プロジェクトのプロジェクトルームへ向かった。それから『他プロジェクトルームを覗く心配性のプロデューサーとアイドルの親子がいる』といううわさが流れ、僕と花火が美咲からこっ酷く叱られるのはそれからわずか2時間後の事だった。

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