園田仁人 〜ソノダキミト〜

 歩いていた。僕はただただ歩いていた。


 僕はただ歩いていても十分過ぎるほど画になる。何故ならこの僕、園田仁人は地球で、いや宇宙で1番のアイドルだからだ。


 宇宙に轟くほどの人気だからなのか、僕の周りの人という人は皆、恥ずかしがって僕の目を見ず話しかけてこない。


 ただ、稀に


「ここへ行くにはどうやって行けば良いのか教えて頂けませんか?」


 そう聞いて来るファンがいる。そこで地図アプリよりも優秀な僕は優しく


「それなら、次の信号を渡らずに左へ20メートルほどの所にありますよ」


そう答えてあげる。


「あの」


「どうしました?」


 また道に迷ったファンが僕を頼りに来たみたいだ。


「和水プロダクション」


 地球上に70億人以上いる僕のファンの1人であるその男性が差し出してきた紙にはそう書かれていた。この名前はよく知っている。僕ほどではないがとても有名なアイドルが所属しているアイドル事務所だ。


「アイドルに興味はありませんか?」


「あります」


即答した。それはもう食い気味に。


 いつからこの時を待ち望んでいただろうか。


 まさか、妄想が現実になるなんて……。よ、よし。これからはファンである君たちの為にもっと多くのメディアに進出してあげましょう。


 外でやっている天気予報でチラリと映るエキストラではなく歌番組のステージに立てるように。

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