相井蒼 〜ソウイアオイ〜

 アイドルとして活動している僕は誰にも言えない秘密がある。


「ふふっ」


 鏡に映る僕であって僕ではない僕の姿に僕はうっとりとしてしまう。


「綺麗だなぁ、僕」


 ナルシストという訳では決してなく、僕は女性のような姿をしている僕の美しさに我ながら魅了されていた。


 そう、僕の秘密というのは女装をする事で、高校入学と共にアイドルになり1人暮らしも始めた僕は仕事で稼いだお金を使って買った服を着て休みの度にこうして女装を楽しんでいた。


 しかし、秘密というのはいつまでも隠し通せるものではなかった。


ピンポン


 インターホンが鳴り、通販で頼んでいた服が届いたのだと思った僕は誰が来たのか確認せずにいつもの通り女装をしたまま玄関を開けた。


「は~い」


「相井さん、いらっしゃいました……」


 扉を開けると宅配員ではなく、僕が昨晩事務所に忘れて来てしまったレッスン着の入った袋を片手に持ったプロデューサーが居た。


「え、えっと……。今時間ありますか?」


「はい」


「ちょっと、入ってください」


「失礼します」


 あまりの驚きに女装をしている時はボイストレーニングで得た女性のような声をするのも忘れていつもの声で話していた。


「なるほど、その様な格好をしていらっしゃる理由は理解しました」


「ありがとうございます」


 取りあえず、プロデューサーが僕の秘密に関して理解のある人で良かった。


「相井さん、一つ伺いたいことがあるのですが」


「何ですか?」


「もし、相井さんがよろしいのならその姿で活動して見ませんか?」


「女装で、ですか?」


「あくまで、相井さんにそのつもりがあるのならばです。お分かりかと思いますが、多大なリスクはあります。それでも良いのであれば」


 まさかこんな展開になるなんて扉を開けた時には全く予想していなかった。


「プロデューサーはその案に僕が賛同してもプロデュース出来ますか?」


「過去にこのようなプロデュースをした経験はありませんが、相井さんが私の担当アイドルである限り誤ったプロデュースはしません」


「じゃあ、僕はプロデューサーを信じます」


 僕は未知なるアイドル道へ足を踏み入れた。

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