大振雨竜 〜オオフリウリュウ〜



彼との出会いは僕の人生にとって大きな刺激になった。


 今から2年前の僕、大振雨竜が14歳になったその日、彼は突然僕の前に現れた。


「すみません」


 彼はそう言って僕に近づいて来た。


「どうしました?」


 彼の目的を知らない僕は何一つ警戒することなく、後に彼に褒められることになる笑顔を見せて聞き返した。


「私、こういう者なのですが、アイドルに興味はありませんか?」


 何度もやっているからか、息をするように自然な動きで名刺を差し出してきた彼に僕はようやく警戒をした。


「突然このような事を言われても信じては頂けませんよね。もし、興味があれば名刺に書かれた電話番号へ電話をして頂ければと思います」


 距離を置いた僕とこれ以上の会話を続けることが出来ないと判断したのか、彼はその場でスカウトを行うのは諦めて、僕の前から立ち去った。


「和水プロダクションプロデューサー真矢咲」


 アイドルに詳しくない僕でもその事務所は知っていて、そんな事務所のプロデューサーである彼にスカウトされたと両親と姉に話すと信じてはもらえなかったが、受け取った名刺を見せてみると揃いも揃って僕にアイドルの道に進むことを勧めて来た。


 そして、


「もしもし、あの、先日名刺を受け取った……。そうです。大振です」


 僕はアイドルになった。

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