蛯名智樹 〜エビナトモキ〜
「プロデューサーなんて大嫌いだ」
僕はプロジェクトルームの扉を思い切り閉めて当てもなく事務所の中を迷い歩いた。
「何だよ。何なんだよ」
謝られても絶対に許さない。今の僕はそう心に決めて、いつもは近づくことのない川野プロジェクトのプロジェクトルームがある階のレッスンルーム前にあるベンチで小さくなって座った。
「あれ? お前、真矢の所の……。確か、智樹だったよな? こんな所で何しているんだ?」
小さくなった僕に声を掛けて来たのはプロデューサーだった。と言っても大嫌いな真矢さんではなく、川野プロジェクトのプロデューサー川野流さんだった。
「プロデューサーと喧嘩をしました」
「喧嘩? 真矢と? そりゃあまた珍しい」
「嬉しそう。ですね」
「あぁ、真矢がアイドルと喧嘩したなんて話は1度も聞いた事が無いからな。それで、原因は?」
「デビューの延期です」
正確にはユニットデビューの延期だ。
「それはまた普通に対処出来そうな問題で躓いたな」
「プロデューサーはいつも僕だけを怒るんです」
そして今日、積りに積もった僕の怒りが爆発した。
「プロデューサーと言う視点から言わせてもらうとユニットなら仕方が無い気もするんだよな。智樹は自分で思っている以上に自分のテンポがはっきりとしていてユニットで踊れば智樹のダンスは先走りそうだからな」
何で怒られたのかは言っていないのに川野さんは予想だけで僕がいつも怒られている個所をズバリ当てていた。
「大方、協調性を出すためにユニットを組ませたんだろうが、珍しくプロデュースをミスったな。智樹、今から暇だろ? 俺がレッスンしてやる。真矢との仲直りも含めてな」
川野さんはイタズラをする子供のような顔で笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます