周防恋 〜スオウレン〜

 丸1日オフだったこの日、事務所からの電話が昼過ぎまで寝ている予定だった私を叩き起こしました。


「ふぁい、周防です」


 礼儀としては失格だと分かっていながらも自分の所属しているプロジェクトから直接掛けられてきたことはスマートフォンに映る文字で分かっていたので私は気を緩めて欠伸をしながら応対しました。


「お休みの所申し訳ありません。真矢ですが」


「どうしました?」


 マネージャーのイケメンボイスがいつもの2割増で嬉しそうだったので少なくとも悪い報告での連絡ではないという事は分かりました。


「前々から次のオフは昼過ぎまで寝ると仰っていたので、昼過ぎまで連絡を控えようと思っていたのですが……」


 はて? そこまで分かった上で昼前に連絡してくるとは、一体どんな良い報告なのだろうと考えながら私はマネージャーさんの言葉の続きを待ちました。


「先日発売したシングルですが、月間ランキングで1位に選ばれました」


「本当ですか?」


 本当にそれだけを伝える為にこんな時間に電話を掛けて来たんですか? 自分が担当しているアイドルは私以外にも月間ランキング1位を獲得している人は大勢いるのに。その言葉にはそういう意味も含めました。


 しかし、そんな風に思うのは大きな間違いだと気付いたのはそのすぐ後の事でした。


「本当におめでとうございます」


 マネージャーさんは真矢プロジェクトのプロデューサーとして担当しているアイドル1人1人の喜びを自分の喜びと同じように感じているのだとその声、その言葉を聴いて初めて知りました。

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