琴花夏樹 〜コトハナナツキ〜

 わたしは仕事柄学校を早退することがある。もちろんマネージャーさんは出来る限り授業に出席できるようにスケジュールを調整してくれるけれど、それでも仕事先の都合でどうしてもという事がある。


 そんな時、わたしが声優という仕事をしていることを知る友人は優しく


「夏樹の出るアニメを楽しみにしているから頑張って」


 と言ってくれる。が、それを知らない友人というか同級生はわたしを自由に帰る変な奴と言っている。


まぁ、慣れた事なのだけれど、たまに少し悲しくなる。


 そう、あの日も。


「先生、すいません。時間なので……」


 校外学習のその日、わたしは担任に断って早退をしようとした。すると、何処からともなく、


「また琴花さん早退するんだ」


 と別のクラスの女子の声が聞こえた。


「こ、琴花さん、あまり気にしないで」


 先生がそう言った途端、先ほどの女子を含めた同級生の


「キャー」


 という声が聞こえた。しかし、それは悲鳴というよりは歓声で、その先にはクマのキグルミを着た烏居彩香さんがいた。


「えっ? なんで?」


 同級生や先生たちと一緒になってわたしも驚いていると、彩香さんは


「がお~ さいちゃんクマだぞ~ 今なら記念撮影に応じちゃうぞ~」


 と言いながらアイコンタクトで


「さいちゃんに構わず先に行け!」


 と言って来た。というより、そう書かれたプラカードを持っていた。


 でも、そのおかげでわたしはその日、嫌な気分になることなく仕事場に行けた。


 何故、彩香さんが来たのかという謎を残して。

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