楊原晶 〜ヤナギハラアキラ〜

「いや~終わったね」


 夏フェスの通しでのリハーサルが終わり、片付けも済んだ午後9時30分、楊原晶は曇った夜空を見上げながら迎えの車を待つ幾人かのアイドルたちとステージ上に座り込み明が全員に差し入れた缶ジュースを飲んでいた。


「えぇ、とても呆気なかったですわ」


「!?」


 晶が驚くのも無理はなく、晶の言葉に反応したその人物は和水プロダクション一の適当アイドルとして有名な烏居彩香だった。


「なになに~? さいちゃんはいつもど~りだよ」


「あ、本当だ。じゃあ、さっきの声って?」


 この時期にはメインMCでの仕事が来るほど自他ともに認めるホラー好きである晶は疲れ切っていたはずの目を輝かせていたが、現実は晶の望むような展開には進まなかった。


「この事かしら~ って、さいちゃんに戻っちゃった~」


「今の彩香ちゃんだったの? 信じられないな」


「うん、さいちゃんもここまで大人しい声が出せるなんて思いませんでしたわ。なんて~」


 数ヶ月前から行っている吹き替えの仕事での大人しい声といつもの声を使い分けながら彩香はそう言った。


「あっ、プロデューサーが迎えに来たみたいだ」


「ホントだ~ アキランまたね~」


「僕も同じ車で帰るのだけど……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る