神木積春 〜カミキツミハル〜
深夜2時を過ぎた頃、この時間帯に人の出入りがほとんど無い川野プロジェクトのプロジェクトルームの扉がギイッと音を立てながら開かれた。
「良かった、まだ居たんですね」
壁に設置された淡い光を除くと真っ暗な廊下からプロジェクトルームでまだ仕事をしていた川野流にそう言ったのは今まさに売り出し中のアイドル神木積春だった。
「積春か、こんな時間にどうした?」
「あれ? おかしいですね、こんな時間に1人でいる時にこんな登場をしたら驚かれると思っていたんですが」
流の表情はいつもと何1つ変わっていなかった。
「俺は仕事中だ、用がないならさっさと帰れ」
「本当いつも冷たいですね。でも、用が無かったらこんな時間にわざわざ事務所まで来ませんよ」
「どうせ終電を逃したからこの部屋に泊めさせてくれとか言うつもりだろうが、生憎ここは沙香が使っているから仮眠室にでも行ってくれ」
流は積春の心を読み、それに対しての最善策を提示すると日中は絶対に見せない死んだ魚のような目をパソコンに向けた。
「お疲れ様です。今度コーヒーでも奢りますね」
積春はそう言うとプロジェクトルームを出て行った。
「沙香、そんな目でこっちを見るな」
最初に積春が入って来た時に鳴ったギイッという音に恐怖した鷲尾沙香がしばらくの間、1人では眠れなくなってしまったが、それはまた別の話である。
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