楠飾利 〜クスノキカザリ〜
「この空の下に集う少女たちの名……そうだな、スカイブルーなんてどうだろう?」
平日の昼間からプロデューサールームにかれこれ1時間は居座っている楠飾利の足元にはカタカナが書かれたメモ帳が散らばっていた。
「それは飾利の好きな色だろうが。ったく、飾利の感性ならお前らにピッタリなユニット名を付けてくれると思っていたんだが、俺の見当違いだったか」
流がそんな風に煽ると飾利は一瞬ムッとしながらも「フンッ」と鼻で笑い、
「そろそろ本気を視せてあげよう」
そう言って持っていた黒いカバンから自作の黒いブックカバーが付けられている一冊の本を取り出した。
「何の本だ?」
「気になるかい?」
「興味がない訳でもない」
「まぁ、聞いておいて何だけれどこの中身は君の興味を惹くような代物では無いよ。所詮はただの魔導書さ」
実際は魔導書などではなく、あまりページ数が多い小説が好みではない飾利が短編小説集としてどこにでも持ち歩いている国語の教科書だった。
「少し時間を貰うよ」
そう告げた飾利は5分間国語の教科書もとい魔導書を速読した。
「実に良い書物だ。おかげで良い名が浮かんだ」
「言ってみろ」
「レインボー……カタカナでは締まりがないから英語表記で『rainbow』でどうだい? その顔はお気に召したようだね。でも、こうも思っている。
5人なのに『7色の架け橋』つまりは『rainbow』なのはおかしい。
と、でもそれはウチたち日本人の虹に対する先入観らしい。他の国では虹は5色が常識となっている国もあるらしい。結局のところウチが何を言いたいのかというと、先入観を超えるパフォーマンスの出来るユニットになるという思いを込めた名だと言いたい訳だ。どうだろう?」
「どうせ教科書、魔導書だったか? の内容から取ったんだろうが、飾利の言ったように俺は確かにその名前を気に入っている」
「じゃあ」
「良いんじゃないか? 『rainbow』」
「君ならわかってくれると信じていたよ」
そう言った飾利はクールにキメた表情こそ崩さなかったものの、とても喜んでいた。
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