第11話
こうして俺と佳奈は結婚した。
チャペルの結婚式では、佳奈とお義父さんが腕を組んでバージンロードを歩いたんだけど、お義父さんが気の毒なくらいがちがちに緊張していて、見ていられなかった。佳奈と腕組んでいなかったら、きっと歩くときに手足を一緒に動かしてただろう。ひょっとしたら、佳奈はこうなることを見越して、結婚に反対したお義父さんに仕返しするために、わざとチャペルでの結婚式を選んだんじゃないか、って思ったほどだった。
披露宴は人数を絞って慎ましくやったが、二次会はお互い大勢いの友人を呼んで、思いっきり派手にやった。
ラグビー部でチームメイトだった巨漢連中が大挙して参加したので、見た目もすごかった。清川先輩はまだ独身だったので、佳奈と二次会の幹事を引き受けてくれたフルバック本郷にお願いして、佳奈の独身の友達を清川先輩の周りに座らせるように手を回した。
高校・大学の後輩である元義弟からのささやかな心遣い、ってやつだ。
それにしても、結果的にはフルバック本郷がグッジョブだったんだよ。やっぱりあいつは、頼りになる守りの最後の砦だった。
そこからは特に面白い話もないので、流してしまう。
2年後に長男が生まれた。俺の両親もだけど、佳奈の両親の喜びようったら、なかった。
特にお義父さんは女の子しかいなかったせいか、俺の息子といると、このまま溶けてなくなっちゃうんじゃないか、って言うくらいトロトロで、かつての頑固親父の印象なんか3億光年の彼方に吹っ飛んでしまった。
今でも佳奈と美奈が揃うと、佳奈の家に結婚を認めてもらいに行ったときのことを笑い話にする。佳奈がしゃべったことを言うと、佳奈は忘れろと言いながらぽかぽかと俺の背中をぶってくる。あのことは、佳奈の中では忘れたいほど恥ずかしい過去みたいだ。
でも、今では俺や息子とはよく話すよ。発音やイントネーションも少しずつ良くなってきているさ。
そうそう、忘れるとこだった。
いつか、ホームから電車に飛び込みそうになった俺を引き留めたのは、カナじゃなくて佳奈だった。
なんでもっと早く気が付かなかったんだろう。あの日、俺の後ろに並んでいた佳奈は、俺の様子がおかしいのに気が付いていて、電車が入線して来るときに俺がふらふら歩き出したんで、危ないって思って、必死で俺のズボンのベルトを掴んだんだそうだ。その後、恥ずかしくなってホームの一番奥まで移動しちゃったそうだ。
元々体が大きいせいで、人ごみの中では人一倍目立つ俺だけど、その時に振り返った俺がすごく印象に残ったそうだ。そのときの俺は、せつなさと悲しみと驚きが入り混じった、実に複雑な表情をしていたそうだ。
だからなのかな、その後、自宅の部屋で夜、居眠りをしていて俺の夢を見たそうだ。
夢の中の俺は、ダイニングテーブルで一人で泣きながら弁当を食べていて、その姿があまりに淋しそうで悲しそうで、佳奈は気の毒で思わず元気付けてあげたくなって、「元気出して」って声を掛けたそうだ。
あの夜の電車の中で酔っ払いに絡まれていたとき、酔っ払いを追っ払ってくれたのが俺だとわかったときは、あまりの偶然に驚くとともに、うれしかったそうだ。
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