第4話

それから1週間くらいたった頃だったと思う。

俺はいつものように、会社帰りにコンビニで弁当を買い、アパートに帰って来て一人でその弁当を食べていた。

ダイニングテーブルで弁当を食べていたんだけど、そのテーブルは将来子供が出来ても使えるよう、4人掛けの大きなテーブルだったんだ。その大きなテーブルで、30歳近いこんな図体のでかい男が一人きりでコンビニ弁当を食べている、って思ったら、無性に悲しくなって、涙が溢れて来てしまった。

いい歳して泣くなんてみっともない、って思っても、どんどん涙が溢れてしまう。俺は俯いて、ぼろぼろ涙をこぼしながら声を出さずに一人で泣いた。

そのとき、誰かの視線を感じた。

俺が顔を上げると、テーブルの俺の正面の席、いつもカナが座っていたその場所に、カナが座っていた。

カナはテーブルに少し身を乗り出し、腕を組むような感じでテーブルに両腕を載せて、にこにこと笑いながら俺を見ていた。

「カナ・・・」

俺は固まってしまった。完全に、頭も体も機能を停止していた。ただ視覚だけが目の前の情報を処理していた。

カナの唇が動いた。声を出さずに、何かを言ったようだった。

「えっ?」

俺は思わず問い返した。カナはもう一度、にこにこと笑いながら同じように唇を動かした。

6文字の言葉だということしかわからなかった。

俺は目の錯覚じゃないかと、目をぱちぱちと閉じた。強く目を閉じて開いたときには、カナの姿は消えていた。


駅で俺を引き留めたカナとアパートに現れたカナ。幽霊だったんだろうか。俺は幽霊だろうとゾンビだろうと、とにかくカナに会えてうれしかったし、また会いたかった。

毎晩寝る前に、またカナが来てくれることを祈ってから寝るのが習慣になった。

でも、それ以来カナが姿を現すことはなかった。やっぱり俺の妄想だったんじゃないかって、思い始めていた。あんまりカナのことばから考えていたんで、幻を見たのかも、って。

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