吸血鬼とアナフィラキシー・ショック

以前、蚊が血を吸うときのメカニズムとして、

・麻酔系の物質を放出(血を吸われるのを感じ無い)

・血液が凝固しないようになる物質を放出

なんて話から、

吸血鬼ってロマンだよね、と話が発展したことがあった。


(今調べたら、麻酔系の作用は書いてない。口が細いから気付きにくいだけか)

(ちなみにどちらも唾液である……)


まぁ、BLで片方が吸血鬼だったら~的な薄い本にありがちな妄想ではあるが。


で。

ふと。

吸血鬼からいろいろ思考が回転した。




0.吸血鬼に吸われて吸血鬼になるか。


これは古典的命題なので、今回はあまり深掘りしない。

ウィルス感染による遺伝子変化などが要因としては挙げられるが、

考えている人は沢山いるだろう。うん。



1.吸血鬼に吸われて死ぬか。


吸血鬼の主食は血液である。

吸血鬼は対象の血液を吸う。


耽美とは無縁の吸血鬼話では、対象が干からびる描写などもある。


では、どれくらい吸うのか。


けんけつちゃんにお出まし願おう。


血液の量・献血の量について


「人間の血液の量は、体重の約13分の1と言われています」


ターゲットを若い女性とする。

小柄とする。計算の都合上、痩せすぎは困る。

体重を52kgとする。

アイドルでは丸めだが、健康的な体重である。


血液量を1/13とすると、4kgである。

血液の比重は水とは異なるが、ざっくりと、4L位と考える。


出血による致死量は血液総量の1/3くらい、とある。

1.3Lである。


 *


単純計算で。

「吸血鬼に襲われた。血を吸われ、女性は干からびて死んだ」

とは

「吸血鬼は1L以上の血液を吸った」


となるわけである。


 *


…………………無理じゃね?


 *


まず、牙ってそんなに長いんかい? という疑問がある。

『首筋あたりに牙の跡』は吸血鬼にはお約束であるが、

幾ら頸動脈は比較的体表面に近いとは言え、『牙』で穿てる程度の深さだろうか。

静脈であれば体表面に近い位置にあるが(献血や血液検査は静脈で行われている)

圧力が少ないため、採血側を陰圧にすることで成し遂げている。


(血液検査の針だけ刺して、試験管(?)に繋いで血が流れ込む様を見るのは結構好きである。濃いどろっとした色味はまさしく静脈血であり、陰圧分しか取れないという仕組みもすごいと思うし、試験管を繋いでいないとき(1気圧下)では針から血が漏れないというのも素晴らしい。…本題ではない)


まぁ、動脈に穴が空いたら多分大変なんだが(圧力で塞がらない…?)


細めの血管でも同じである。

つまり吸血鬼さんは『吸い続けないとならない』のである。


1L以上を。


さらに。


1L。である。


「あたしお酒ならワインボトル2本とかいけちゃうー☆」

そんな方もいるだろう。

あ。おいらは無理です。ワインあんまり飲まないけど。シャンパン1本でアウト。


これは、720x2[ml]をさっくり飲めちゃう☆の 証左ではない。

アルコールは胃の活動を活発にする作用がある。

つまり、アルコールは飲めるのだ。


この場合比較すべきは、水、もしくは、牛乳、オレンジジュースなどだろう。


1L、飲めますか?


飲めたとして。

吸いすぎて腹を膨らせた蚊のごとく。

胃をたぷたぷ言わせて、よたよた逃げ去る姿が想像される……


かっこよくないよ!?


 *


ちなみに、成人献血は400ml。0.4L。

400mlは健康であれば安全圏。

缶ジュースに置き換えて、1本分よりちょっと多い位。

あ、これなら飲めそうだね??


適切に水分を取らないと、貧血状態になるけどね!←一回やった。



2.アレルギー反応


蚊と同様のメカニズムで考えるのもどうかと思うが、血液凝固をさせないための物質で人はアレルギー反応を起こす。

蚊に喰われてかゆくなる、あれ。


アレルギー体質の人だと、ふくらはぎ刺されて膝から下が全体的に腫れたりとかあるらしい。おいらは実家の目の前が竹藪、と言う環境で育ったこともアリ、ぷくっと膨れてかゆいわ-!程度だった。まぁ、慣れていた。


1の程度の吸血量だったとすれば、吸われた方は酷い貧血で済む。吸われた後で適切に水分補給をすれば、無理な運動でもしない限りは酷いことにはならない。


では、アレルギーはどうか。


アレルギーがないと、吸われたことに気付かない。気付かないなら気付かないで良いのだが、吸われすぎても気付かない、となる。

アレルギーは異物に対する反応ではあるが、そう言う意味で身を守る反応でもある。


もちろん、吸血鬼が存在し、恒常的に吸われるような環境であれば、アレルギー反応も有り得るだろう。


極部の腫れか。

静脈から全身にアレルギー物質が回った事による発熱か。

発疹、なんてものもあるか。


1度なら、こんなアレルギー反応だろう。


では。2回目は?


 *


一般的には、同じような反応が起こるはずである。

抗体がうまく働くのであれば、症状は軽めになるかも知れない。


過剰に働けば。


アナフィラキシーショックが起こる可能性もある。


 *


蜂などで有名だが、アナフィラキシーショックとは急性で過剰なアレルギー症状である。

血圧低下、意識障害、最悪、心停止。


これ。生死に関わる。


『アレルギー』という言葉にはついて回る概念である。



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 女は銀のバレットを銃に込める。嫌いな食べ物を自然と忌避してしまうかのような感覚が、その薄暗い路地にはあった。

 女は暗闇へ目をこらす。都会の影を集めて凝縮したような暗がりの中、うごめく輪郭が見える気がする。薄い色味のサマードレスの少女。そして、少女に伸びる細い腕──。

 銃を構え。トリガーを。躊躇もなく。

 ネオンに煌めく白銀のバレットが僅かな反動と共に。

 硝煙を感じる僅かな間の後、少女は路地を抜け繁華街へと走り去った。

 銃を下げる。自然と溜息が零れた。

 女は路地へと足を向ける。下げた銃は、しかし、ホルダーへは戻さない。オートマのストックには、あと六発。人に向けるにはやわらかすぎる弾が仕込まれている。

 いつでも構えることが出来る姿勢を保ったまま、女の足は暗がりへ。

 血のにおい。……擦過音。

 構えるが早いかトリガーを絞る。ノッキングももどかしく、銃倉が尽きるまで。

 瀕死の腕が伸びる。銃を掴むその手を。

 振り払おうとして体勢は崩れ。路地の壁へとしたたかに肩を打ち付けた。

「見、つけ、た……」

 血まみれの。急所を外したが故に、凄惨な姿となったそれが女を捕らえる。

 見覚えのあるつり上がった目、崩れてはいたが、記憶の片隅に確かにある、輪郭。

 女は目を眇めつつ。けれど無表情に、自由な右手で太ももにくくりつけたナイフを取る。

 ふつりと、取られた左腕の皮膚が裂かれる感覚と同時に、それの心臓へと。

 銀の脆すぎる刃を突き立てた。


 まだ少女と言われる時代、女は吸血鬼の贄となった。

 混濁した意識の中で覚えているのは、しびれるような快楽と白いその貌。

 吸血鬼による死亡事件が多発していた最中の事で。生き延びたことを両親は心の底から喜んでいたのだけれど。

 ──一人で暗がりを歩いたりはしないように。

 医師は言った。

 ──死亡事件は、二度目以降で起きているのです。


 女は物体と化したそれを蹴飛ばす。

 力が抜けていきそうになる身体を記録で動かし、上着のポケットから注射器を取り出した。震え始めた手で、噛まれた部位に針を刺す。ゆっくりと薬液を。

 ……吸血鬼の唾液に対する血清である。アレルギー物質の中和剤でもある。


 多くの命を落とした少女たちのように、あの快楽をと思う自分がいるのも確かだ。

 けれどまだ、もう少し、生き延びたいと思うのもまた、確かだ。


 震えが納まるまで待って。しかしまだどこかだるさの残る身体を気力を使ってどうにか立たせる。埃を叩き、溜息のような深呼吸を。

 ──帰ろう。

 今夜はもう仕舞いだ。明日にはまた、人間社会に紛れ込んだ吸血鬼がどこぞで事件を起こすだろう。

 女は人混みへと、紛れていった。

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