◇第二章 オタクを舐めるなよ!

第4話 『金髪ツインテール』

 必ず勧誘すると決めたものの、先立つ情報は必要だと気付いたのは、決意した翌日の朝。とりあえず葵に佐竹と藤堂先輩の情報を仕入れることにして今は昼休み。いつもの場所で昼食を食べ、いつものように今日は葵に何の作品を布教してやろうか考えながら葵を待つ。


「すまん、待たせたな」

「おう。お疲れさん」


 それから少しして会談のため階段に現れたのは理知的な瞳と凛々しい立ち姿が特徴的な女子生徒。稀代の大和撫子と称される彼女は、名を霧月葵という──っていう流れは前に似たような描写をした気がするから、認知度を上げるために一応明記しておく。


「例の情報、きちんと仕入れたぞ。と言っても、勝手に周りに来る生徒が愚痴っているのを聞いていただけなんだけどな」

「まあ、あの二人に比べて葵の評判はかなりいいからな。最近葵の株がかなり上がってるのもそれが原因の一端だろ」


 優しくて面倒見がよくて俺みたいなぼっちにも分け隔てなく関わってくるくらいお人よしだからな、という賛美の言葉は胸にしまい、葵のくれる情報を聞き逃すまいと集中する。


「どっちから言おうか?」

「じゃあ……藤堂先輩から頼む」

「了解」


 そう言ってブレザーのポケットから手帳を取り出し、数ページめくった後に話し始める。


「藤堂梨紗。三年四組に転入。外見は黒髪ロングで胸囲の主張が激しい。脱いだらもっとあるんじゃないかともっぱらの噂だが、確認はおろかセクハラ然としたことを聞ける生徒などいないため、詳細は不明。それから──」

「ちょっと待て。お前誰からその情報聞いたんだよ」

「だから私の周りに寄って来る生徒が──」

「その生徒と関わるのはやめとけ。お前、そのうち盗撮されて毎晩の──いや何でもない。そいつとはもう関わらない方がいいと思うぞ」

「??? 気さくないいやつなんだが……まぁ、なんにせよ実害は被っていないわけだし、いざとなれば合気道で撃退できる。問題はない」

「そ、そうか……」


 この自信は一体どこから湧いてくるんだろう。羨ましい。とはいえ、件の生徒は然るべき報いを受けさせねばなるまい。そのうち俺の観察眼を以てそいつを絞り出して、怪しい動きがあれば止めに入ろう。てか、そもそも居心地が悪くなって逃げて来てるから観察のしようがないじゃねーか。


「とりあえず、藤堂先輩については大体分かった。次は佐竹の情報を」


 名前とクラスと容姿については把握できたからそれで十分だ。それ以上は部活に勧誘してからじっくりと──いかんいかん。本音が出そうになった。俺だって健全な男子高校生だ。その手の話に興味がないわけではないというか、全面的に三次元のことについては興味を示さないが、藤堂先輩は黒髪ロングの巨乳で、さらに告白が殺到するほどの傾国の美女。だから少し取り乱してしまったようだ。二次元万歳!


「……今物凄く怖気を感じたんだが、大丈夫か?」

「ああ、問題ない。続けてくれ」


 たとえ本音地の文が少々口から出ていたとしてもこいつはオブラートに包んでくれるいいやつだ。ほんとに。


「次は佐竹加蓮についてだな。一年三組に転入。すでに噂は広まっているためか、クラスではキミと同じような感じになっているらしい。最近だとクラスでの居心地が悪くなってきているのか、安息の場所を探しているとか……」

「えらく詳しいなお前」

「有名人の噂というのは瞬く間に広まるものだ。最近だと私がキミと密会しているのではという噂さえ流れているぞ」

「なっ……」

「ああ、安心したまえ。ほとんどの連中は私のお人よしな性格、そしてキミのぼっちから考えると、恋仲ではないと判断されている」


 豪胆──というかカッコよすぎるだろ。思わず俺の方がヒロインかと思っちゃったじゃねーか。


「放浪しているのならそのうちここにも現れるのではないか?」

「そうだな。可能性は十分考えられる」

「それでは、私はそろそろ失礼するよ。この後まだ約束があるのでね」

「そうか。ありがとな」

「頑張ってくれたまえ」


 もし俺が女で、葵が男だったら間違いなく一目惚れするであろう爽やかな笑顔を見せ、彼女は颯爽と去っていった。

 と、そこに。

 いつから二人だけだと錯覚していた……的な感じで、索敵機能が稼働していなかったわけではない俺でも気づかなかった金髪ツインテールが壁に背を預けて腕を組んでいた。要は、いつからか佐竹がそこにいたってことで。


「あんた、あたしのことぼっちだと思ってるでしょ……」


 ゆっくり目を開けて、一歩ずつこちらに近づいてくるは金獅子のような雰囲気を纏っていると思っているんだろうけど、虎の赤ちゃん並みに威勢がいいだけにも見える金髪ツインテール。要は、言ってる内容がアレだから親近感が湧いて威圧的に見えないわけで。


「今失礼なこと考えてたでしょ?」

「少しも微塵もこれっぽっちも思ってません!」


 心の中で親近感が湧いていても、自然と敬語になってしまうのはきっと俺のコミュ障のせい。


「とにかく、今日からここはあたしのテリトリーだから。今すぐ立ち退きなさい!」


 ツインテールヒロインにあるあるの傍若無人で理不尽な言動がこれまた王道。こいつ、いわゆるツンデレなのではなかろうか。

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