第51話終戦

それほどまでに意気込んで準備して二回戦に行った。


行ったのだが、やはりその数日前から緊張に押しつぶされそうになっていた。

当日には、ゲッソリとやせ細って、自分で見るのも悲惨な顔つきになっていた。


それほどまでに、賭けていた。

それほどまでに、笑いを貪欲に求めた。


そして、二回戦の舞台の出番がきた。


一回戦の時と同じネタを、寸分の狂いもなく、やり続ける。


やり始めて数秒、笑いが弱い!


一回戦ではもっと笑いがきていたのに、全く同じネタをしているのに。

二回戦では、少ししか笑いがこない。


もっと、声を張ってみる。

やはり、笑いが少ない。弱い。

それが身をもってわかる。


額から少しずつ汗が滴り落ちてくる。


このままじゃいけない!


そう思いながらも、ネタを途中で変えることもできない。

笑いが弱いと自分で思いつつも、もう、どうしようもなかった。


ネタの終了と同時に、ちらほらした拍手。


舞台を降りた。


なんだ?これは?

一回戦と全然違うやんけ!

あんなに笑いをとったネタが、今日はこんなに笑いが少ない!弱い!

これこそ笑いの魔物である。


全く同じネタが、ある日、ある場所では爆笑。

しかし、ある日、ある場所ではウケない。


なんでだ?


その原因が、理由がわかれば、ノーベル賞ものだ。


僕はゆっくりとフリップを片付け、敗戦を覚悟した。

僕もプロだ。

自分で、ある程度の結果くらい予想がつく。


これは、落ちただろう。

もし、これで万が一合格していたとしても、自分から辞退しよう。


それだけの結果。未熟なできだった。

ただ、疲れ果てた。


あんなに自分を追い込んで勝利した一回戦。


もっとさらに自分を追い込んで敗戦した二回戦。


何がどうちがう?

何もわからない。

でも、やるだけの事は全てやった。

結果を結果として、受け入れるしかなかった。


その日の夜の合格発表。

一目みて、すぐ消した。

僕の名前がない。どころか、合格者が20名くらいしかいない。

二回戦の出場者が200人ほどだったので、約、十分の一にまで絞られ落とされていた。


「ふぅーーーーっ。」


終戦だ。


誰がなんと言おうと、どうしようもなかった・・・・・・

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