第45話共振

「パパは人前で、変なことするの?」


息子の素朴な質問だが、返答に困る質問だった。

人前で変なことする?まちがっちゃいないが、それじゃあまるで・・・


変質者じゃないか!!


「うーーーーん。ちょっとちがうね。」


僕は考えながら、息子にこう答えた。


「お笑いっていうのは、たしかに人前で変なことをするけれど、それは変なことだと、わかっていてやる事が多いんだよ。本当に変な人ではないんや。」


「ふーーーーーーん。」


「どうすれば人にわらってもらえるか?楽しんでもらえるか?そればかり考えて、それを演じているのがお笑いの芸人なんや。」


「それって、学校のおたのしみ会みたいなもんやね!」


息子がピクリと反応した。


「学校でさ、お楽しみ会のお笑いのコーナーっていうのがあって、そこでどんなことしたらいいのか?みんなで考えたことがあるよ。」


「そう。そんなもんかな。」


もちろん、学校のお楽しみ会と比べられては、人生をかけて捧げてお笑いをしている人間が聞いたら、そりゃあ怒るだろう。

そんなものと一緒にするな!!と。


でも小学2年の息子に伝えるのには、それで十分だとおもった。

それ以上望むべきではない。


いずれ、すべてをわかってくれるだろう。僕の息子なのだから・・・


「でもね。なかなかそれではお給料が出なくて。それだけでは、ママや君たちにご飯を食べさせてあげれないから。パパは別のお仕事も一生懸命やっているんだよ。」


「ふーーーーーーん。」


息子に言いたいこと、伝えたいこと。山ほどあるのに。

僕の20年間を語りだしたら、そりゃあ数分間では収まりきらないし。

息子にはこれだけわかってくれたら、何も望まない。


「パパは、ママも君たちも大好きだよ。君たちがずっと、


ずっと、

ずっと、


・・・・・笑っていてくれるなら。


・・・・・それでいい。」


そう言って、息子を思い切り抱きしめた。


「・・・パパ?

・・・・・・・ないてるの??」


「・・・・・いいや。」


それでもこみあげてくるものを、抑えることはできなかった。

少しずつ、僕の目に涙があふれてくる。

その涙は、なんなのか?

なんなのかはわからないが。


たまらないくらい、息子が愛おしかった。


ふと、台所にいる、妻を見た。


妻も、うつむいて、必死で涙をこらえていた。


この、最愛の息子の為にも、

妻の為にも、

僕は、まだまだ頑張らなければいけない。


いつか、結果を、

それがどのような結果なのか、

僕にも想像もつかないが。


家族に示してやれる、結果をださなければ・・・・


そのためにも、頑張らなければならないと思った・・・

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