第40話中途半端
その年のR-1ぐらんぷりの決勝戦をテレビでみていた。
妻はもとからお笑いが嫌いなので、見向きもしなかったが、僕のそばでテレビをチラ見していた。
僕自身も、面白いと思う部分もあれば、
「俺のどこがいけない?」
みたいな目で見る部分が多かった。
この人たちは、一体何を評価されてテレビに出ているのか?
そして、俺は何が悪くて評価されないのか?
そんな僕に妻はハッキリ言った。
「見ても仕方ないんとちゃう?」
「いや、だって!」
「あんたの良さなんて、誰にもわからんと思うわ。」
妻はズバッと言った。
「だって、私だって、あんたの良いところ、今でも全部わからんしね。」
「・・・・おい。おい。」
「チラッとあんたを見るだけの人に、あんたの良さなんてわかるわけがないやん。」
そう。
チラッと見られて、全部を評価されるのが、お笑いの世界。
いや、芸能界の全てと言っても過言ではない。
「それでも、やっていくんやろ?」
「・・・・うん。」
「あんたの事、みんなもっと、じっくり見てくれたらいいんやけどね。」
妻は少しずつだが、僕という人間と、芸人との結びつきを感じ初めていた。
箸にも棒にもかからない芸人ではないのだが、これと言って何か強いものがあるわけでもない。
何か持っていると言われれば、持ってない事はないのだが、
なかなか結果の出る芸人ではないということ。
ましてや、チラッと見て終了の世界では、僕のような人間と、インパクトの強い人間とでは、まさに、
雲泥の差が生まれてしまうだろう。
「それでも、家族の事考えたら、売れなくていいけどね。」
「・・・・」
「一生それでもええんちゃう。」
妻の言葉は、ずっしり重かった。
辞めろとも言わない。
売れろとも言わない。
その行く先は、中途半端な結果しか生まれないだろう。
それでもいい。
それでもいいと。
妻は思ってくれているのだ。
逆に売れてしまえば?
そんな事考えたこともないが。
妻の思う僕からは、遠く遠く離れてしまうのだろう。
なんだかんだ言って、中途半端な結果しか生まない事が、
僕に芸人を続けさせ、
僕に家族を大事にさせ、
妻とも一緒にいれるのだ。
中途半端が全て。
でも、中途半端に救われている。
それでも、芸人は辞められない。
バランスがとれていないなようで、
バランスがとれていた。
本当に僕は、不思議な芸人だ・・・
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