第38話無力
一年間で二つの賞を一気に頂いた僕。
こんな経験をさせてもらったのは、本当に生まれて初めてだったし、芸人冥利につきた。
妻も、
「あんたって、そこそこの芸人やったんやね?」
と、言うようになった。
お笑い嫌いの妻に、「そこそこ」と言ってもらえるようになった。
もはや趣味でも道楽でもない、一生を捧げてる。
それに理解を示してもらってる、その手応えを感じていた。
その年もR-1ぐらんぷりの予選があった。
昨年は三回戦まで進んでいる。
今年は賞を二つも頂いているし、本当に絶好調の年だった。
R-1の予選までに、ライブ出演をはしごしたり、徹底的に一回戦から決勝戦までのネタを作り上げ、
「今年こそは!」
という意気込みで参加した。
そして、予選の一回戦の当日。
きちんとネタをし、お客さんの爆笑をかっさらった。
そして、結果発表。
・・・合格者に、
・・・名前が、
・・・なかった。
何度も何度も、何度も、一回戦の合格者に自分の名前を探してみる。
どこにも自分の名前がない!
何度も、ネタを振り返ってみる。
しっかり笑いもとれたし、二回戦進出はどう考えても確実だと思っていた。
ここ5、6年、どんな事があろうと確実に二回戦以上進出していたし、その上で今年の挑戦だったのに。
一回戦敗退。
芸人、二十年目にして。
そして、去年と今年の自分、何が違うのか見比べてみる。
・・・・無所属。
それ以外の何者でもなかった。
自分は今年は、所属事務所のないフリーの人間だった。
そして、合格者の名前をズラズラと見てみる。
フリーの人間の少なさよ!
どんな事を言っても言い訳になる。
結果が全ての世の中。
だけど、所属事務所を失ったら、突然落とされるなんて!
しかも、きちんと予選でお客さんの笑いをとって。
「うあああ!!!!」
思わず叫んで、その場にのたうち回りたかった。
こんなに、必死でやってきて。
賞を二つももらい、子供も二人授かり、
それでも必死に、必死に、必死に、やって
妻にも少しずつ評価されてきたのに・・・
あっさりと、バッサリと、落とされる・・・
まさに、問答無用。
それが、現実。
所属事務所を失った事が落選の原因だと、決めつけるのは、良くないとわかりながら、すべての結果が、それを突きつけていた。
「売っていきようがないねん!」
事務所を解雇されるときに、マネージャーに言い放たれた言葉。
今でも、
忘れていない。
忘れるものか。
負けるものか。
負けるものか。
あんたらに、売ってくれと、頼んだ覚えなどない!
俺が頑張ってるのは、家族のためだ!!
どんなに落とされようが、拒絶されようが!
絶対に、負けないからな!!
二つの賞と、二人目の息子を授かり、
R-1の予選で落とされた。
皮肉な年だった・・・・
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