第35話おとうと

無事に二人目を出産した妻。


すぐに退院してきて、家の中がにぎやかになった。

次男は産まれた時から、よく泣くし、よく笑うし、元気そのものだった。


長男が産まれた時は、あまりにも顔が僕に似ていて、笑ったが、

次男は、驚くほど妻に似ていた。


よって兄弟はあまり顔が似ていないのだが、長男も、6歳離れた弟の誕生を喜んだ。


「おいで!おいで!赤ちゃん!」


なんて、弟を手招きするのだが、ちょっと前は、おまえもそんなんやったんやで!

と、ツッコミたくなった。


弟がお漏らしすると、

「ママ!おとうとがうんちした!臭い!」

なんて、鼻を摘まむが、

いやいや。おまえの方がもっとすごかったんやで。

と、1人目とダブって見てしまう部分があった。


とにかく、長男は、よく弟が泣いてもあやしてくれたし、6歳離れているせいか、ケンカもせず面倒をよく見てくれた。


二人目を持ってつくづく思った事。


会社員をちゃんとしていてよかった。

健康保険があるのはもちろんの事、会社から出産祝いも出たし、

きちんと納税や確定申告しているおかげで、こども手当てや、市の乳幼児医療費減額制度など適用されて、かなり助かった。


売れてない芸人には、こんなものなかっただろうにな。


この頃には、僕は職場の近所の中古マンションを購入し、35年ローンを組んだ。

このローンを組めたのも、会社員として安定した収入があったからだ。


ふと思う。

本当にこのまま、芸人続けて大丈夫なのだろうか?

もう、僕は二児の父親だ。

妻と、この子達の生活、将来は全て僕にかかっている。


会社員して安定した収入があり、家族に恵まれているのなら、


もう、それでいいのでは?


そう、少しずつだが思うようになった。


芸人を辞めたくない気持ちも、誰かを見返してやりたいとか、そういう負の気持ちが強いからなのではないか?


もう、家族の事だけ考えて生きていかなくてはいけないのではないか?


本当に、本当に、真剣に考えるようになった。


辞めたところで・・・・


誰も、俺のことなんて・・・


・・・・知らないし、気づかない。


次男を優しく抱っこしている、妻の姿を見て、少し気持ちが揺らいでいた。 


それでも、

それでも、


辞めてはいけない。


そう、結論を出したのは、もう少し後の事だった・・・・

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