第33話再会

高校の同窓会の日

本当は同窓会に行く予定だったので、丸一日予定を空けており、行くとこがなく、家で息子と遊んでいた。


そして僕の携帯が鳴る。

ひとりの同級生からだ。


「なんで、今日来なかってん?原田に会えるの楽しみにしてたのに。」


電話で事情を説明した。

ネタをさせてほしいと、こちらから申し出たのに、多数の「いらん」という声があった事。

それにより、傷ついて行かないと判断したこと。


「なんや。そんな事があったんかいな。今から二次会やねん。会えるか?」


「・・・・いやあ。」


半分へそを曲げていた僕だったので、なかなか行く気にはなれなかった。


「あんな!お前のネタ見たいねん!」


そいつはストレートに口にした。


「お前が出てるテレビ、ずーっと見とったから!お前が面白いのは十分知ってるから。俺の他にも、ネタ見たいって言ってる人間おるねん。その数人のためにも、ネタ、しにきてくれへんか?」


・・・・求められている。


無関心に打ちのめされていたのに、同級生の数人が、僕を見たいと言って来てくれている。

こんなに求められているのに、


断る理由がどこにある!!


「行くわ!」


すぐに電話を切った。

妻がすぐそばにいた。


「出番やね。出番がきたんやね!」


妻の手には、やっぱり僕のシャツが用意されていた。


「ネタしてほしいらしいから、ちょっくら行ってくるわな!」


遊んでいた息子も駆け寄ってくる。


「ぱぱ!いってらっしゃい!」


求められれば、行く。

必ず行く!

その時のために、妻がシャツを準備してくれていたのだ。

大多数の人間が無関心でも、少数の人間に求められれば、俺は行く!


行かないわけがないだろ!


シャツに手をとおし、

数人の同級生たちが待つ居酒屋へ向かう!


「原田おさむが、来たで!」


その同級生たちは、拍手で僕を迎えてくれた。


「ドラマ見とったで!」


「テレビ見てたで!」


口々に再会を祝ってくれた。

これが大多数の人間ではないのは、仕方ない。

もっと活躍しなくてはならない。

それでも、一人でも、二人でも、俺の事を見てくれていた。


「今からネタします。」


深々と頭を下げて、狭い居酒屋の中で、僕は喋りはじめた。


小さな笑い。

同級生たちの小さな笑い。


でも、俺を求めて来てくれたんや!

最高の、舞台じゃないか!

関係のない、他のお客さんまで見てくれる。


一生懸命やっていれば、必死にやっていれば、少しずつでも伝わるんだ。


・・・・パチパチ。


居酒屋の中で、数人のお客さんしかいなかったが、しっかりと拍手を頂いた。


同級生たちと握手を交わし、その後昔の話に花を咲かせた。


「何があっても、応援してるからな!」


「そうや!興味のないって言った人間を見返してやれ!」


僕はお酒が飲めないが、同級生たちと朝までそこの居酒屋で談笑した。


僕に、同級生はいた。

しっかり、友達はいた。


腐っちゃだめだ。

見てくれる人は、絶対にいる。


売れようが、売れてまいが、そんな事どうだってかまわない。

信念を持ってやり続ける事が正しいと感じた。


家に帰ると、妻と、息子が寝ていた。

妻のお腹に手をあててみる。

ずいぶん大きくなってきたな。

また新しい命が、妻に宿っている。


この子にも、恥ずかしくない生き方をしなくては。


お腹の中の小さな命。

新しい赤ちゃんのためにも、


俺はまだまだ、やらないといかん・・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る