第26話解雇

長崎から帰り、僕はまた、死ぬほど働く生活に戻った。


映画のロケに行かせてくれた恩返しもあったやはり家族を養うため。

会社員として、以前よりさらに職務に全うした。

芸能活動したければ、その倍以上働かなくては。

働かざるもの、食うべからずとはよく言ったものだ。

数ヶ月後の映画の公開も楽しみに、それを励みに働いていた。


ある日、仕事中に僕の携帯が鳴る。

仕事中なので出れなかったので、着信履歴を見てみたら、事務所のマネージャーからだ。


なんだ?

仕事かな?


普通にそう思った。

テレビにも出たし、映画にも出たし、次に何か仕事が来たのかな?

と、淡い期待を抱いて、事務所のマネージャーにかけ直してみた。


淡い期待は、裏切られた。


「あのー。確認なんやけど。最近なにか、事務所のライブ出てるの?」


「いや、最近は出てないです。」


「・・・それは、なんで?」


「勤めているパチンコ店の仕事が忙しいもので・・・・」


なにか、会話の雲行きがあやしい。

もしかして?

と、思った。

その、もしかしてだった。


「そんな、芸人、売っていきようがないやろ!!」


マネージャーは冷たく言い放った。


「じゃあ、そういうわけで、今日で事務所の所属から外しておくわな!」


「ちょ、ちょっと、待ってください!」


余りにも淡々と話が進むので、思わず食い下がった。


「・・・・なに?」


「出演した映画が、もうすぐ公開されるんですけど。」


「・・・・それが?」


「いや、その・・・」


「何回も言うけど、・・・・売っていきようがないねん!」


「・・・・・」


「じゃあ、もう、君はうちの所属じゃないので。」


あっさりと電話を切られた。


あまりの急な話に、しばらく動けなかった。


たしかに、働きすぎで、最近事務所のライブにも出れてなかったけど。

映画に出たり、テレビに出たり、なんやかんやあったので、まさか、


クビになるとは思わなかった。


でも、よくよく考えたら、会社員しながら芸人している人間など、

それが理由で事務所のライブに出れない人間など、いつ戦力外通告されてもおかしくはない。

でも、自分の中で、甘えかもしれないが、


なんやかんやで、籍だけは置かせてくれると思っていた。

事務所に害さえなければ。


ましてやこの、出演映画が公開される前に、このタイミングで解雇されるとは思わなかった。

まして、こんな淡々と、何の温情もなく、

「売っていきようがないねん!」

と、突き放されるとは。


うちの上司の店長だって、僕が辞める辞めないで、あんなに怒ったり、妻に電話をしたり、厳しい中にも優しさがあった。

僕を気にかけてくれた。

僕の家庭を思ってくれた。


そしてそんな会社だから、残ろうと、一生懸命働いて恩返ししようと思った。


だけど、こっちの芸能事務所は、少し芸能活動が滞ったら、


こんなに、あっさり、


電話一本で、


ほんの2、3分で、


僕にクビを告げた。


・・・・冷たい。


・・・冷たすぎる。


あんなに、芸人辞めるか?

会社辞めるか?

で、のた打ち回っていたのに。


あっさり、事務所から戦力外通告を受け、僕は解雇された・・・・


これが現実。

現実なんだ。

結果が全て。


うちの店長が優しく思えた。

よっぽど店長の方が、人の血が通っている。


あんなに怒られたのに、罵られたのに。

僕をクビにはしなかった・・・・


それより、この先どうすればいい?

目の前が真っ暗になった。


どうやって、芸人を続けていこうか?

どのようにして?


所属事務所という後ろ盾を失い、僕はとうとう、芸人としての居場所すら無くなってしまった。


ずっと電話を握りしめて、これが夢であってほしい・・・・


そう思った。


でも覚めない。

夢じゃない。


・・・・本当に本当に、現実だった。

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