第27話初心

突然、所属事務所を解雇になり、失意に打ちのめされていた僕だったが、

妻は相変わらずだった。


「別にええんちゃうの?」


これっぽっちも気にもしていなかった。

確かに、事務所から毎月定期的に仕事をもらっていたわけではないし、出演していたライブもチケットノルマのある、出れば出るほど出費ばかりのライブばかりだった。


それでもテレビ出演のオーディションなど、数少ない機会は、全て事務所経由で行っていた。

その数少ない機会を、失うことになる。


「自分で思うようにやったらええやん。」


妻の言うとおりだ。

これからマネージャーのかわりに、僕が僕自身を売り出すために動けばいい。

テレビ局などは事務所に所属していないと、相手にしてくれない所が多いが、


それでも、


やっぱり、


芸人は続けていかなきゃいけない!!


まず自宅を中心に

「原田おさむ事務所」

を立ち上げた。


SNSを起点として、ありとあらゆる人脈、あらゆるつてを伝って、自分で自分の出る場所を確保するのだ。

ネタをする機会、自分を知ってもらう機会を、自分で作りあげていこう!


仕事は選んでる場合じゃない。

個人でやっていくのだから、贅沢は言ってられない。


まず、僕が出演する映画の公開が控えていたので、映画のプロデューサーにお願いして、

映画の前売り券をたくさん買い込み、


手売りで宣伝していく事にした。


自分の出演した映画でもあるし、何より映画に対して恩返しをしたかったからだ。


ある人には前売り券を郵送し、ある人には電車を乗り継いで前売り券を渡しに行き、ある人は僕の住んでる近所まで、前売り券を買いに来てくれた。

数百枚あった前売り券を、映画公開前には全部売り切った。


まさにゼロから、ゼロからのスタートだ。


映画「ペコロスの母に会いに行く」は、公開されるやいなや、感動作として高い評価を受け、その年のキネマ旬報の邦画部門第一位に輝いた。

それだけ質の高い映画に出演させてもらったのだ。


妻ももちろん、この映画を見てくれた。


「めっちゃ、いい映画やったよ!」


妻も絶賛していた。

それでも、


「あんたの出てるシーン、恥ずかしくて見れんかったわ。」


だって。

そんな事言うなよ。

身長が高すぎて、ボートレーサーをクビになる役だった。


事務所をクビになったばかりの芸人。


リンクする部分がたくさんあった。


さあ、ここから自分で道を切り開いていくのだ!!

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