第25話長崎

ついに映画のロケで長崎に行くことになった。


もちろん会社に2連休をもらったのだが、その前日まで上司に怒られながらガンガンに働いていた。

でも、それも愛情と受け止め、長崎に行く直前には、


「しっかりやってこい!」


と、背中を押されて送り出してもらった。


妻は少しさびしそうに、

「2連休なんて初めてとちゃう?たまには家族旅行に行きたいのに・・・」

と、言っていた。

「いつか、必ず、家族旅行は行くかららな!」

きちんと妻にも恩返ししなくてはならないな。とその時誓った。


映画での僕の出番は1シーン、セリフは30文字ほどだが、

きちんとホテルもとってもらい、とてもありがたかった。


それよりなにより、僕の住む大阪から長崎のロケ地まで、新幹線を乗り継ぎ、

電車を2本乗り継いで片道交通費だけで5万円以上!

と、いうことは往復で10万円以上!

それは立て替えて、あとで支給される。

お金の話ばかりするのもいやらしいが、僕みたいな売れてない芸人のために、

ホテルの宿泊費と合わせて20万円くらい、この映画の製作費を使っているのではないか!!

これは感謝しなくてはならない。


この映画の出演に当たっては、実はいろんな方とのご縁があり、僕の実力以外にもいろんな方のご協力、支援があって実現したのだ。

その方々には、この場を持って感謝の意を伝えます。


本当にありがとうございました。


はてさて、映画のロケも無事に終了し、さっそく妻に電話した。


「もう。早く帰ってきてね。無事に帰ってきてね。」


どんなときにもそれしか言わない妻だった。

映画のロケといえば、どんな有名人がいただとか、どんなとこで撮影しただとか、そんなことを聞くより、真っ先に僕の安否を気遣ってくれる。

いつもそんな妻だった。


死ぬほどのカステラを買った。

妻や、家族にはもちろん、職場にも、店長にも、事務所のマネージャーにも。

総額いくら使ったのかは覚えていないが、恩を忘れてはいけない。

カバンに入りきらずに、一部大阪まで宅配を依頼した。それくらいカステラを購入した。


カステラでは賄いきれない、いろんなものを経験させてもらった。


そんな人生で初めての映画出演だった・・・



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る