第20話限界
映画のロケの日は刻々と迫っていた。
毎日職場では行き場のない牢獄のような日々が続く。
「こんなけ客が少ないのに帰れるんか!帰れると思ってるのか?」
「明日の集客のために、何かしたんか?どのようにして客を増やすんや?」
「ネタ考えるヒマあったら、仕事の事考えんかい!」
上司から浴びせられる罵声。
もはや自分の休みなどへったくれもない。
ほとんど不眠不休だった。
それでも僕がずっと仕事をしている間も、妻は子育て、家庭を守っていてくれた。
やっと休みがとれた日に、家族サービスをしてやりたかった。
そして久しぶりの休みの日に、妻と子供とショッピングモールにお出かけをした。
本当に何日ぶりかの家族サービスだった。
「最近休みとれてなかったね?平気なん?」
妻は僕を心配したが、妻も子育てで1日たりとも休んでいなかった。
たまの休みにショッピングモールに連れて行くくらい、どうってことなかった。
「大丈夫やで!大丈夫やから。」
自分の身体の疲れなど、家族の事を思えばへっちゃらだ。疲れなど、少し眠れば何とかなる。
その家族サービスの次の日、
店長からまた、怒号を浴びせられる。
「なに、昨日、休んどんねん!こんなけ客も少ないのに、なめとんか?休んで昨日どこ行ってたんや!!」
もはや、八つ当たりに近かった。
それでも僕は正直に答えた。
「家族サービスで、ショッピングモールに行ってました。」
店長の怒号は止まらない。
「ショッピングモール!?アホが!」
「・・・・・・」
「たまの休みの日は、自己研鑽するのが当然やろ?」
「・・・自己研鑽?」
「休みの日は、自店のために他店調査に行くとか、買い物に行くにしても、どうすればうちの店の集客に繋がるのか?デパートやスーパーにしても、どんな接客してるのか?全ての休みの全ての時間帯も、呼吸をしている間も、全て仕事の事を考えて自己研鑽 しろ!」
「・・・そんな、」
「何が、家族サービスや!自分の店が危機的状況にあって、芸人活動?ましてや、映画に出る?もっての他や!そんな人間は休みの日も、常に仕事の事だけ考えろ!!」
もはや言っている事が鬼畜だった。
全ての休み、全ての時間を仕事に捧げろ?
自己研鑽?
この会社で、部下にそこまで強要する上司がどこにいる?
そこまで強要される会社員がどこにいる?
たまの休みの家族サービスをも非難されて、もはや限界に近かった。
「・・・なんや!その顔は!」
「・・・辞めます。」
「あーーーっ???」
「・・・辞めます!」
もう詰められるのも、責められるのも、もう全てが理不尽に感じて仕方なかった。
映画の出演の事も、家族を人質にとられて、理不尽な事を強要されるばかりじゃないか!
たった、2日、休ませてほしいと言っただけじゃないか!
「・・・辞めます!」
そう言い切る僕に、店長は顔を真っ赤にして立ち上がった。
「・・・・一番、言うたらあかん事を言ったなー、お前は!!!!」
何を言う。
一番言いたくない事を、言わせたのは、あなただ!
そして、僕と店長の確執は全てを巻き込んでいくのだ。
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