第19話拷問

勤務していたパチンコ店は、業界の規制強化もあり、どんどんお客さんが減っていく危機的状況に陥った。


ましてやS社員のような部下すらも、人員不足でクビにする事もできず、使わなければならなかった。

そしてSの告げ口により、店長の怒りの矛先は常に僕だった。


毎日死ぬほど残業したし、自分の公休日を減らしてサービス出勤していても、毎日のように怒られ、罵られ、罵倒された。


そんな折、この僕に映画出演の話が決まる。

「ペコロスの母に会いに行く」

という映画の、ボートレーサーの役で、台詞もけっこうある役だった。


妻に報告すると、真面目な日本映画への出演なので、

「よかったやん!」

と手放しで喜んでくれた。

僕も嬉しかったし、本当に頑張らなければと思った。


そして、それを上司である店長に報告した。

映画の収録は2ヶ月後なのだが、長崎にロケに行かなくてはならず、最低2日は休ませてもらわなければならなかったからだ。


予想以上の罵声を浴びせられる。


「なんやねん!映画出るから休むって!アホか!誰がそんな事認めてん!」


「いや、あと2ヶ月あるので、何とか休ませてもらえないでしょうか?」


「休ませてもらうもなにも、まずその映画の話、誰の許可うけて、引き受けとんねん!」


「・・・はい。」


「会社が危機的状況やのに、映画で休むやと!認めん!絶対認めん!」


「そこを何とかお願いします。」


2ヶ月前にきちんと話を通しているのに、なぜここまで罵られないといけないのか?

そう思いながらもひたすら頭を下げた。下げ続けた。


「あと2ヶ月以内に、店の状況をどうにかしろ!」


「・・・はい?」


「あと2ヶ月以内に、お店の客を増やせ!売上と利益を今より●%アップさせろ!それができたら、考えてやる。」


「・・・・そんな!!」


「貴様は会社員やろが!会社が休まさんと言ったら、休まさんのや!ボケ!」


もはや鬼畜のようなノルマを架せられた。

前もって早めに2ヶ月前に休みのお願いをしたことにより、逆に2ヶ月間の鬼畜の日々を架せられたのである。


鬼だ。

悪魔だ。

今までだって、どんなに休まず働いたっていうんだ!

映画出演のために、たった2日休ませてほしいと言っただけじゃないか!


それでもこの会社、この仕事を失うわけにはいかない。


この頃から妻は、完全に僕の異変に気付く。


「どないしたんよ?映画の話決まったのに、毎日暗い顔して、なんかあったの?」


「・・・・いや。」


妻に相談するわけにもいかない。

せっかくの映画出演を是が非でも実現させたい。

そのための、鬼畜の2ヶ月。


それでも心はポッキリ折れそうだった。

理不尽で心の中がグチャグチャになっていた。


なんで、たった、2日、休ませてくれぬ?

なぜだ?

俺が何をしたというのだ?


もはや僕は限界に近かった。


・・・妻よ、君との約束。

・・・とうとう守れないかもしれない。


心の中の片隅から、少しずつ何かが壊れていった・・・

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