第18話確執

テレビ出演も果たし、僕の生活は順風満帆かのように見えた。


しかし勤めているパチンコ店において、僕の立場はどんどんと追いやられていた。


別のパチンコ店員のストーリーにも詳しいことは書いたが、部下にS社員という男がいた。

このSとは名前のイニシャルではなく、シュガー社員の略称でS社員と呼ぶ。


Sは社員になってから遅刻ばかりし、僕がほぼ毎日のように自宅に起こしに行ったり、電話で起こしたりして、かろうじて社員の首の皮一枚つながっていた男である。

しかし、非常にずるがしこく、別の部分で頭の切れる男だった。


事あるごとに当時の僕の上司である、店長に取り入り、媚を売り、そして自分の立場を確保するのである。

そして真面目に働いている人間に怒りの矛先を向けさせる。


その矛先はやはり僕が芸人活動をしながら、パチンコ店の役職者をしていることである。


もちろん、仕事は一生懸命やっていたし、アルバイト時代から無遅刻無欠勤無早退で勤め上げてきた。

しかし言われなき誹謗中傷の的になることも多々あった。


「原田主任は、仕事中にネタを考えている。」


「R-1の三回戦に進むくらいの面白いネタを考えるくせに、仕事のことは考えない。」


「自分のシフトも、芸人としてのライブ出演の日に休みを入れ、都合の良いようにシフトを操作している。」


などである。

もちろん、仕事中にネタなど考えていないし、ライブの予定も月に一回だけ、それも自分の公休を振り替えて出演していた。


その誹謗中傷のほとんどが、S社員が店長に報告していたものだった。

自分の遅刻から目を反らすために、僕が芸人活動している事に非難の目をむけさせ、自分の素行をもみ消そうとしていたのだった。


店長は常に言う。

「誹謗中傷されたくなかったらな!されないような仕事をせい!言われる隙のないくらい、仕事ができないお前があかんねん!」


そう。S社員は僕の部下。

僕は上司。

何も言われないように、言わせないように、仕事しなければ追いやられてしまうのだ。


そのため、人の何倍も働いた。

死ぬほど残業した。

少しでも何も言わせなくするために。


理不尽に感じた事は、何回もある。

何故、こんな人の何倍も働かなければならぬ?

何故、芸人であるがゆえに、勝手に仕事のハードルを上げられ、一般人より多く働いても評価されないのか?


毎日夜遅くまで残業して、疲れて帰宅すると、妻が僕の顔を見て何かを感じとっていた。

「最近どないしたん?仕事しんどいの?大丈夫?」


それでも「大丈夫やで!」と胸を張った。


こんな事に負けるものか。

芸人になってから誹謗中傷なんて、日常茶飯事だ。

若いときだって、言われのない事で、今までだってどんなけ言われても耐えてきたんだ。


今は家族がいる。

家族のために頑張らなければ。

弱音など吐いている暇はない。

妻に愚痴などこぼせない。


嫌なら芸人を辞めればいい。

そんな気はさらさらない!

芸人を辞めないのであれば、歯を食いしばって前に進むしかないのだ。

どんなに売れてなくても、芸人を辞めるつもりはない。


そんな意地を張って、妻にも心配をかけないように平常を装った。


しかし、やがて事態はより、深刻になっていくのだ・・・・・


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