第14話糸口
テレビ出演の話を蹴った僕には、もはやネタでのテレビ出演の道しか残されていなかった。
ピン芸人の頂点を競う、R-1ぐらんぷりの予選には毎年出場していたが、ほとんど一回戦で落ちてばかりだった。
試行錯誤し、七年目の挑戦の年に、初めて二回戦進出を果たした。
七年かかり、やっと二回戦である。
ネタでテレビに出る事、これほど難しいことである。しかし、それ以外に僕がテレビに出る道はない。
それが自分で選んだ道。
R-1の予選に向かう僕を、いつも妻と子供が見送ってくれた。
毎年毎年である。
お笑い嫌いの妻の良いところは、
「今日どうやった?」
とか、
「今日ウケた?」
などといちいち聞いてこない。
予選に出かけるときに、一言声をかけてくれるだけである。
「あんた!ちゃんと、見てもらうんやで!」
小児科に行く子供か!!
それでもそれっきり、何も聞いてこない。詮索してこない。
それがいらぬプレッシャーにならない。
結果を求められないのは、物凄く気が楽だった。
そして、ある年、三回戦まで進出を果たす。
ここまで来るのは結構な競争率である。
もう一踏ん張りでテレビ、のところまで行った。
それでも、現実は厳しい。
せっかく三回戦に行ったその年も、あっけなく三回戦で散った。
そんな年でも、妻が言う。
「テレビ出たら、どうしようかと思ったわ。」
・・・・そんな妻だった。
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