第13話十字架
番組のプロデューサーに断りの電話を入れた。
「なんでですか?こんな話、もうないですよ?こっちだってもうスタッフ、動き出してるんですよ?」
「すみませんが。違う芸人さんを当たってください。」
「申し訳ないですけど、売れる気あるんですか?こんな話断って、売れる気がないとしか思えないです!」
電話口で僕は唇を噛み締めた。
売れたいよ。喉から手が出るほどテレビに出たいよ。
色んな人に俺の事、知ってもらいたいよ。
だけど、
妻と子供をテレビに映すわけにはいかない!
それだけはできないんだ。
それだけ尊い物なのだ。
「・・・すみません。」
断った。
せっかくの機会を断った。
事務所のマネージャーからも怒りをぶつけられる。
「そんな芸人、こっちだって、売っていきようがないからな!!」
テレビのプロデューサーに泥を塗り、事務所にも泥を塗り、それでも家族を選んだ。
家に帰ると妻が、子供を抱っこして出迎えてくれた。
「断ってくれた?」
「うん。もちろんや。」
そして、また強く妻と子供を抱きしめる。
「・・・・辛かった?」
と、妻が言う。
辛いことなんかあるもんか。
このまま、一生売れないかもしれないが。
君達とは、一生、一緒にいたい。
「頑張っていれば、そのうち何かあるはずや。何か。」
息子ももうすぐ2歳になろうとしていた。
僕は、後悔なんてしてない。
家族を養う者は、全員十字架を背負っているのだ。
僕だけじゃない。
みんな十字架を背負って生きているのである。
自分さえ良ければなんて、十字架を放り投げる事はできないのだ。
いや、こんな可愛い、愛らしい家族を、十字架なんて呼んではいけない。
これでいいんだ。
これで一生、売れなくても。
・・・・それでいい。
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