第15話念願

そんな折、ついに念願のテレビ出演が決まった。


「あらびき団」という番組だった。


普通の面白い芸人さんだけでなく、見ててツッコミどころのある芸であったり、ひとくせもフタクセもあるような芸人さんばかりを出している番組だった。


きちんと事務所からオーディションを受け、多数の芸人さん達の中から、きちんときちんと選ばれて出演が決まったのだ。


出演が決まった事を妻に報告した。

「えーっ?ほんまにテレビに出んのー?」

妻は驚いた。

しかし、反対はしなかった。

きちんと自分のネタと実力で掴みとった、正真正銘のテレビ出演だからだ。


以前テレビ出演したのは、妻と交際するずっと前。

今回のテレビ出演まで、十年以上の歳月を費やしていた。

誰も僕の事なんか、覚えていない。

これが最初のテレビ出演だと言っても間違いない。


「大丈夫なん?ほんまにテレビに写るの?」


妻は喜びより、心配の方が大きかったが、最後は僕に、


「きちんと、見てもらうんやで。」


また小児科に行く子供に言うような台詞を言った。


誰にも迷惑かけないよ。

家族を犠牲にしてないよ。

俺、自分のネタで掴みとったんやで!!


会社にも連休をもらい、事務所から夜行バスのチケットをとってもらい、いざ、東京へ向かう。


こんな夢の切符を手にできず、何百人の芸人が涙を飲んだ事だろうか?

本当に何百人の中から選ばれたのである。

俺、ほんまにテレビ出演決まったんや!

俺だけなんや!


俺だけにしか、できない仕事なんや!!


そして、夢にまで見た、東京のテレビ局に向かったのである。

妻よ、息子よ。


ありがとう。


感謝の言葉しか思い浮かばなかった・・・

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