第11話甘い話

子供が生まれ、狭いアパート暮らしに明かりが灯った。


とても元気な男の子で、双方の両親も喜んでくれた。


幸せの絶頂だったある日、当時所属していた事務所からテレビ出演の話が舞い込んでくる。

まさに幸せに、幸せが重なった。


番組の内容は、売れていないけれども、パチンコ屋の社員をして、

妻も子供も養いながら、頑張っている、僕という芸人を取材させてほしいとの事。


番組のプロデューサーからも直接電話がかかってくる。


「頑張ってる芸人さんにやっと、運が向いてきましたね。今はネタが面白いだけでもなかなかテレビに出れないんですよ。こうやって頑張ってる芸人さんを取材したいんですよ。」


「はい!よろしくお願いします!」


「奥さんにもよく言っておいてくださいね。」


「はい?」


「もちろん奥さんと子供さんにも出て頂きますから。嫌とは言わないでしょ?」


僕は戸惑った。

お笑い嫌いの妻。テレビに出たいはずがない。

ましてや、小さい子供をテレビに映す?

僕にも少し抵抗があった。


でも、こんなチャンスない!

断ったら、もう一生ないかもしれない。


早速、番組の話が来たことを、妻に告げた。

そして出演をお願いしてみた。


「絶対、嫌!」


予想通りの答えが返ってきた。


「・・・どうしてもか?」


「嫌!」


「・・・お願いしてもか?」


「絶対!絶対!嫌!!!!!!!」


やはりか。

仕方ないので、番組のプロデューサーに断りの電話を入れることにした。


「すみませんが、妻が嫌がっているので・・・」


「なんでですか?こんなチャンスないですよ?決してちゃかしたり、変な風には映しませんから。一生懸命頑張ってる芸人さんを純粋に取材したいだけなんです!本当にチャンスですよ!奥さんを何が何でも説得してください!」


「・・・・はあ。」


「奥さんだって、あなたに成功してもらいたいはずです!話せばきっと、わかってくれますって!」


「・・・・はい。」


そして、妻に土下座する勢いで、お願いしたのであった。


・・・・しかし・・・・

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