第10話妊娠

結婚して数か月で、妻が妊娠した。


妻は本当に子供が好きだったので、本当に喜んだ。

もちろん僕も喜んだ。

そのころは小さなアパートの一室で結婚生活をはじめたのだが、さっそく新しい家族が増える。


つわりが始まると、毎日妻は気分が悪いと、食事ものどを通らなくなる。

だけど僕の食事はきちんと作ってくれた。

つわりの時は、特に味噌汁が飲めないらしい。

僕は大の味噌汁好きで、毎食味噌汁を飲んでいた。

カレーライスでも、シチューでも味噌汁を飲んでいた。


そのうち食卓に味噌汁が出てこなくなる。

妻がつわりでつらいのだろう。

飲めないのだろう。

だから僕は何も言わず、黙って食事をしていた。


でも数日経つと味噌汁が恋しくなって、即席の味噌汁を自分で買ってきた。

妻に隠れて、見えないとこで飲もう。

まるで覚せい剤のように隠れて、味噌汁を飲む機会をうかがっていた。


すると、翌日夜遅く帰宅すると、妻の用意した晩御飯にラップがしてあって、台所には1杯分の味噌汁が用意してあった。

そして妻の手紙が置いてあった。


「今日はしんどいので先に寝るね。今日はあなたの分だけ味噌汁作りました。最近味噌汁なくて辛かったでしょ?あなたはキチンと飲んでね。」


その手紙をみて、涙がこぼれてきた。


辛いことなどあるものか。

味噌汁がなんだ。

君はもっと辛いじゃないか。

俺の事思って、飲めない味噌汁作ってくれるなんて。


夫婦がお互いを思いやるって、こんな小さなことでわかるんだな。

と思った。


やがて臨月がきて、深夜に妻に陣痛が来る。

そのまま病院に連れて行き、

「すぐに生まれないかもしれないので、旦那さんはいったん帰って、朝、もう一度来てください。」

と、言われた。


妻に「一人で大丈夫か?」

と聞くと、

「大丈夫。そんなすぐに生まれへんて。」


そして僕は帰宅して、少しだけ横になった。

そして朝方5時くらいに、僕の携帯が鳴る。


「今産まれました!男の子です!」


はやっ!!

びっくりするほどの安産で、長男が産まれた。

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