第7話結婚式
そして、僕ら二人は結婚式を挙げる事になった。
参列者は、圧倒的に新婦側が多く、女友達の多さは、彼女の人当たりの良さを物語っていた。
新郎側は、当時勤めていたパチンコ屋の店長とマネージャー、僕の幼なじみや同級生の友人数人のみ。
新郎の参列者の倍以上、新婦側の参列者がいた。
僕は芸人関係の人間は一人も呼ばなかった。
披露宴の司会者の人にも、パチンコ屋の社員をしている事だけ告げて、芸人である事は一言も言わなかった。
これで、いいのだ。
これで。
とどこおりなく、式が終わろうとしていた。
最後に僕の友人代表の幼なじみの男が挨拶に立った。
「本日は、本当におめでとうございます。」
何事もない挨拶が始まると思っていたのだが、
「僕、今日の結婚式来て、納得いかない事があります。彼は、原田おさむは、芸人です!」
なんと!幼なじみの友人が暴露しだしたのだ。
「新郎の原田おさむは、芸人してます。しかも中途半端にしてるのではなく、本気で十年以上芸人してます。テレビもよく出てたし、ドラマだって出てた男なんです。なのに、今日の式で司会者の人からも紹介されなかったし、なんかうやむやにされてるみたいで。」
さらに友人は続けた。
「原田くん!こんな大事なこと、うやむやにしたらあかんと思います。彼は立派な芸人です。ネタだってよく考えられてるし、演技力もあるし。なのに、彼の大切な人生の大切な結婚式で、この事が、これっぽっちも触れられないのは、僕は納得いきません!」
会場のみんなが彼の話に耳を傾ける。
もちろん新婦の彼女も。
「僕はこの後、原田くんにどんなけ怒られようとも、責められようとも、構いません!これだけは言いたい!彼は素晴らしい、面白いお笑い芸人です!才能あります!飯が食えなくて、ずっとパチンコ屋の社員してますが、それでも芸人辞めなかった!そして、一人の女性を伴侶にしようとしてる。家族を築こうとしてる!立派な事じゃないですか!素晴らしい事じゃないですか!芸人に対して偏見を持ってる方がおるかもしれませんが、彼は立派です!友人として尊敬します。だから、彼の大切な結婚式で、彼は素晴らしい、お笑いの芸人であると、告げたかったんです。原田くん許してください。そして、新婦の奥さん。彼を、彼を
彼を、誇りに思ってやってください!」
友人の挨拶に涙が出てきた。
こんなに、思ってくれてたんや。
どんなに辛くても、飯が食えなくても、芸人ずっとやってきたからな。
この結婚式でその事がスルーされること、我慢ならなかったんやろ。
僕もずっと、胸につっかえていた事。
彼が僕の代わりに全部吐き出してくれた。
隣をみた。
彼女を見た、
彼女の目にも、うっすら涙が。
芸人の妻になったのだと。
わかってくれたようだった・・・
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