第5話お笑い嫌い

彼女のお笑い嫌いは、本物だった。


テレビを見ても、M-1の優勝者や、R-1の優勝者のネタを見ても、クスリともしない。


それどころか、テレビでネタ番組をやっていると、絶対にチャンネルを変える。

はなから見る気がしていない。

彼女は筋金入りのお笑い嫌いだった。


それでも、僕とは波長があった。

お笑い芸人をしている事を隠して知り合ったという事もあったが、

どちらからともなく、付き合うという形になった。


会えば会うほど、お互いに惹かれていく。

会えばいつも、彼女は電車の最終まで一緒にいてくれた。


そして、電車の最終の時間が近付くと、

とても悲しそうな顔をした。


「次はいつ会えるん?いつ?」


「仕事の休みが決まったら連絡するから。」


「・・・早く連絡してや。」


いつもそんな感じだった。

本当はお笑い芸人なのに、お笑い嫌いの女性と惹かれ合う。


これでいいのだろか?


でも、ほとんど売れていないし。

テレビに出てるわけじゃない。

収入だって、パチンコ屋の社員の給料が全てだ。


機会があれば、彼女に言おう。

決して悪い事をしているわけじゃない。


それにしても、お笑い芸人のくせに、

お笑いの嫌いな女性と惹かれ合う。

なんか、なんというか。


俺らしいな。


と、思っていた。

根がまじめだからなのだろうか?

いろんな数奇が重なり、僕らは出会った。


そして一年近く付き合い続けたとき、

タイミングを見計らい、彼女に告げた。


「俺、お笑いやってるねん!」


「えーーーーーっ!!!」


やはり、彼女は驚いた。

そしてやはり、嫌な顔をした。(^^;)

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