鉛色の空のもとで(仮)

@minamoto298

第1話 失敗

才能には格差がある。

生まれながら持っている者と持たざる者。その2つの差は何なのだろうか。

なぜ自分で選択できず、勝手に決められるのだろうか。

それを決めるのは誰だ、神が本当にいるなら彼か。もしそうなら私は彼を憎めば済む。

しかしもし誰が決めるのでもなく、自動的に決まるのだとしたら。

私は誰を憎めばいい、私は誰を恨めばいい、私は誰に銃を突きつければいいんだ。

私を産んだ母親か?

私が出来損ないとしってて殺さなかった産婆か?

それとも・・・何かしたわけでもない、ただ生まれてきたことが罪だと・・・?

この私自身を・・・憎むしかないのか?

私の行き場のない怒りやたくさんの負の感情、嫉妬は才能のある者へ当てられる。

持たざる者から持っている者へ

負の感情を弾丸に込め、撃ちこむ・・・

「っ・・・しまったな」

私は床に掘った溝に流し込んでいた水銀を少しこぼしてしまう。

おかげで作業が中断だ、今までは滞り無く進んでいたのだが・・・考えこむ悪い癖がでてしまった。

集中力を高めるためにとわざわざこんな寒い季節に暖炉を消してから作業してたのに、これじゃただの馬鹿じゃないか。

思わず自嘲の笑みが湧き出る。

しかしこれは困ったものだ。

今気がついたがこの土地は少し北に傾いていたのか・・・いや、地盤沈下でそうなったのだろうか・・・

仕方がない、ここまで来ては仕切り直しもできない。魔法陣の形は崩れてはいないから問題なく「銃」を召喚してくれることを願おう。

私は魔術師だ。世の中の選ばれた者だけがなれるただの人よりも優れた存在。

魔術師の証である私の肩に刻み込まれた魔法陣。普通なら文字や記号がいくつも書き込まれており、その数が魔術師としての才能を示す。しかし私のには一つもない・・・それは出来損ないの証。

だからこそ銃に頼るしか無い。

魔法ではなく、相反する科学と工業で発達した、弱き者、強き者関係なく力を与える銃。例えそれを使うことを責められようとも、魔術師の面汚しとも、極悪人とも言われようとも、出来損ないが力を得るためには他人の優秀さに嫉妬しながら銃を握ることしかないんだ。

私は銃の召喚のため床の魔法陣へ魔力を流し込む。これが最後の工程だ。水銀が魔力に反応し光り始め、異世界へとつながり銃を引き出す。

魔力量よし、宝石の配置よし、星の位置、時間、私の立ち位置も問題ない。ただ、魔法陣の少しこぼれた水銀だけが不安要だが警戒しながらでもやってみるしか無い。

床の魔法陣が異世界とをつなぎ、召喚物を指定し、固定する。それを一度ばらしながらこちら側へ引きずり込み、魔法陣の上で再構築する。

・・・成功だ、たしかにこちらの世界からあっちの世界へつながった。

私はまだ召喚は終わりきってないが思わず安堵する。魔法陣は未だに光に満ち、銃の形や大きさは見えないが確実に銃をこちら側へ持ってきたという実感がある。

やがて魔法陣は流し込まれている水銀を消費し、徐々に光を弱める。

そこで私は最後まで油断は禁物だと自覚する。

魔法陣の上には明らかに銃ではないもっと大きな影が映っている。

私はすぐ警戒をしなおし、魔法による防護膜を体に貼ろうとした瞬間、光の中の影が私に向かいフルオートでなぎ払うように発泡する。

防護膜の生成が間に合わず3発ほど食らってしまうが、それ以降の弾は全て弾くことができた。

私が相手が銃を使い、そして銃弾に魔力を込めていないことから魔術師ではない判断し、魔衝破の呪文を唱え、相手に魔力からなる衝撃波をぶつける。

「グハッァ・・・」

という声とガバンッという魔衝破があたった音が聞こえ、光の中の影は1,2mほど吹き飛び。動きを止めた。

それとともに床の魔法陣の光も消えかかり始める。

銃を撃ってきた言うことは人だろうか。私は防護膜を維持したまま、左手で撃たれた箇所を抑えつつ吹き飛ばしたものに近づき、それを確認する。

そこには到底まだ武器を持つべきではない年頃の、金髪で、髪の長い、少女が。自分と同じように横腹から血を流し、銃を抱えながら気を失っていた。

私は少し考えたが、どうであれ子供は殺すと眠れなくなる。私を殺してきたとはいえこのまま放置して置く訳にはいかない。

私は血の流れている彼女を抱き上げる。子供は殺せない。私の私に定めた多くはないルール。

決してその子供の手の甲に魔法陣が描かれ、記号や文字が敷き詰められていても。

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