第3話

「相川君、あーん……」


 赤色の箸に掴まれた卵焼きは、僕の口のそばにあった。彼女を見る。彼女の目は、僕の目をじっと見つめていた。


「……えっと」


「あーん……」


 彼女の目は妖美に光っていた。その目は魔法の目。見る者を魅了する。僕の思考を狂わせる。


「あ、あの」


「大丈夫だから……」


 彼女は白い手を僕の顔にそえた。ひんやりしていて心地良い。そして、僕の顔は動かなくなった。


「口を開けて」


 僕は彼女の言いなり。僕の口は自然に開く。そして、卵焼きが口の中に入ってくる。甘くて、温かくて、とろけた。


「もっと欲しい?」


「うん……」


 僕は朦朧としながら答える。彼女は妖しい笑みを浮かべた。


「もっと食べさせてあげるね」


 僕が卵焼きを吞み込み終えると、また卵焼きがそこにあった。僕はかぶりつくように卵焼きを口の中に入れた。彼女はクスクスと笑った。

 僕は長い間、卵焼きを食べ続けた。そして、彼女はこう言った。


「卵焼きはあと一つしかないの」


 僕はそれを聞いて、ひどく残念に思った。でも、まだ一つある。そう思って、口を開けた。けれど、彼女は卵焼きを僕の口に運ばず、ただ妖しい笑みを浮かべていた。そして、静かに笑い出した。


「ふふっ……相川君……うふふふふっ……」


 気付くとそこは教室ではなく、魔女のお城だった。僕はその時、ここでこの魔女に食べられてしまうと悟った。


「ふふっ、美味しそう……。いただきまーす」


 魔女はゆっくりと大きく口を開けた。


 大きな音がして、頭にひどい痛みを感じて手で押さえる。頭をベッドの角にぶつけたようだった。鼓動が奥の方からドキドキ鳴っている。夢の余韻が心の奥底にへばりついて、それはまだ夢の中にいるような錯覚を起こさせた。けれど、肌は現実の朝の空気を感じていた。僕はふわふわした気持ちのまま、学校を出た。


 昼食の時間がくる。クラスの皆のおしゃべりが始まって賑やかになる。僕はいつものように、お弁当を取り出した。

僕は好物のウインナーを取り出そうとする。


「相川君」


 背筋にゾクリとする波が流れた。まだ理由はわからなかった。


「あーん……」


 彼女の目は、僕の目をじっと見つめていた。

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