第2話

「もしかして、相川君って……」


「な、何?」


「女の子苦手?」


 僕の心臓がドクンと脈打った。全身から汗が噴き出す。


「ごめん、大丈夫?」


「……うん」


 僕は俯きながら答える。


「そっか、そうなんだ」


 高宮さんは何やら納得したように言った。僕はというと、顔が赤くなっているのに気づかれていないか不安で仕方なかった。

 しばしの沈黙。

 ふと高宮さんの方を見る。目があう。彼女は魔法の目を持っている。一度目をあわせたら、離すことはできない。そして、彼女は美しかった。どこか、笑みを浮かべているような気がする。


 彼女は魔女だ。


 彼女は彼女の唇を動かして、


「ならさ、私と」


 顔を近づけて、こう言った。


「友達になろうよ」


 それから僕は、女の子に慣れるためにということで、ことあるごとに高宮さんに話しかけられるようになった。それは例えば、休み時間の時や、昼食の時。あるいは授業中の時もそうだった。


「相川君、前向きなよ」


 授業中なので声を出すわけにもいかず、僕は頷いて答える。


 先生が言う。


「相川君、授業中は集中してくださいね」


「……はい」


 くすくすと笑い声が聞こえる。笑わないでほしい。小池君の笑い声も聞こえた。あとで何か言ってやろう。


「静かに。では、数学の演習ノート、7ページを開いてください。」


 数学の演習ノートは普段あまり使われないものだった。僕は机の中を探って、それを探す。が、ない。いくら探してもどこにもなかった。

視線を感じて右を向くと、高宮さんと目があう。彼女は小声でこう言った。


「忘れちゃったの……?」


「……うん」


 僕も小声で答える。彼女はそれを聞くやいなや、先生の方を向いて大きな声で言った。


「すいませーん、相川君がノート忘れたみたいなんですけど」


 くすくすと笑い声が聞こえる。さっきより大きい気がした。僕の顔は熱くなった。


「相川君、そうなんですか?」


「はい……」


「では高宮さん、相川君に見せてあげてください」


「わかりました」


 彼女は僕の方を向いて、妖しげな笑みを浮かべた。


 また、長い授業が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る