ワイルドサイドでつかまえて
九一がこの街に来たのは15歳のとき、全寮制の高校に入るためだった。
九一の両親は高校生になったら彼を独立させると決めていた。
それは教育方針ではなく、単にマンションが手狭であり、高校生にとって親は疎ましい存在でしかないことを両親がよく心得ていたからだった。
県内で全寮制の高校があるのはこの街だけだった。
男子校で、規律が厳しく、外出も制限されていた。
友達と遊びに行くのもままならず、彼女を作るのも校則で禁止されていた。
九一は3年間の鬱屈した高校生活を終え、同じ街の大学に進んだ。
それに伴い高校の寮から一人暮らしのアパートに引っ越した。
それまでの窮屈な生活から一変、大いなる自由を手に入れた。
大学の入学式を目の前に控えた4月、九一は黄昏のレンガ路と呼ばれる街一番の繁華街を歩いていた。
飲食店や風俗店が軒を連ねる一画。
この街に住んで3年になるが、足を踏み入れたのは初めてだった。
表通りだけではなく裏通りにも店がひしめき合っていた。
歩いていると呼び込みに次々と声をかけられた。
九一は無視して歩き続けた。
目的はなかった。ただの社会見学たった。
一人の女が、ある店の入り口に立ってたばこを吸っていた。
背が高く綺麗な女だったので自然と目がいった。
髪を後ろに束ね、耳に大きな輪っかのピアスを下げていた。
顔の彫りが深く、厚い唇をすぼめて煙を吐いていた。
女も九一を見た。
2人の視線が絡み合ったことを互いに認識した。
すると女が手招きをした。
誰か他の人を呼んでいるのだろうと思い、九一は後ろを振り返った。
誰もいなかった。
九一は女に近づいていった。
目の前に立つと女は言った。
「遊びいかない?」
かれた声だった。
酒とタバコのせいだろうと九一は思った。
九一は返事をしなかった。どう答えていいか分からなかった。
断る理由はなかったが、いいよと答えるのは間が抜けてる気がした。
女はそんな九一の心情をすぐに理解したようだった。
ちょっと待って、と言い残し、店に入っていった。
裏口のため看板もなく、どんな店なのかは分からなかった。
間もなく女は上着を羽織り、小ぶりのショルダーバッグを肩から下げて出てきた。
「行きましょう」
女は九一の答えを待つことなく、導くように歩き出した。
九一はついていった。
2人はイタリアンレストランで食事をし、ワインを飲んだ。
女はサキと名乗った。
サキは頼んだチーズを二切れほど食べただけでひたすらワインを飲んでいた。
ときどき声を上げて笑った。
酔ってはいるようだが見た目は変わらなかった。
酒は強いようだった。
あの界隈で仕事をする人間なら当然かも知れない。
九一は自分のことを話した。
この街の出身ではないこと。全寮制の高校に通っていたこと、4月から大学生なること、アルバイトを探していること。
「あら、だったらウチで働きましょうよ」
サキが言った。
「簡単よ。お酒運ぶだけだから」
断る理由はなかったが唐突な申し出に九一が答えられずにいると、サキは畳み掛けるように言った。
「明日から来れる?」
急な気がしたが、特にやることもないので頷いた。
こうして九一はゲイバー「つぶらな瞳」で働くことになった。
目を開けると白い天井が目に入った。
自分の部屋ではなかった。
大きなベッドに横たわっていた。
サキが白いバスローブを着てソファにもたれていた。
長い足を組み、タバコを吸いながらテレビを観ていた。
「おはよう」
女が言った。
「ここは?」
「ホテルよ」
「どうやってここまで?」
「覚えてないの?」
九一は記憶をたどった。
覚えているのはサキからバイトのオファーをもらったところまでだった。
「徒歩で来た?」
「タクシーよ」
「今何時?」
「まだはやいわよ」
窓がなかったので朝なのか夜なのか分からなかった。
枕元にデジタル時計があった。
2:35
「ずっと起きてたの?」
「商売柄こんな早くは寝ないわ」
九一は起き上がった。
酔いはすっかり覚めていた。
「シャワー浴びてくる」
大人3人は入れる浴槽だった。ジャグジーがついていた。湯も張ってあった。
シャワーを浴びた。
ボディソープは妙に泡立ちがよかった。
ペニスを念入りに洗った。
女性とホテルに来るのも、関係を持つのも初めてだった。
気づくと勃起していた。
興奮を鎮めるために自分でした。
大量に射精した後で、気持ちはすこし落ち着いたものの、勃起は治らなかった.
九一は浴槽に入り、ジャグジーのスイッチを入れた。
泡が吹き出してきた。
吹き出し口に足の裏を当てた。
初体験がどのようなものになるのか誰でも想像するだろう。
相手は誰か?
場所はどこか?
想像通りに事が運ぶのか?
九一はジャグジーから出るともう一度シャワーを浴びた。
体を拭き、バスローブを着ると、ドライヤーで髪を乾かした。
部屋の電気が消えていた。
サキはベッドに入りこんでいた。
寝てしまったのだろうか。
九一のペニスは再び勃起していた。
また自分でするしかない。
だが、この機会を逃したくはない。
目覚めた後でチャンスはあるだろうか?
九一はベッドに行き、サキの様子を伺った。
サキは目を閉じていた。
九一が顔を近づけると目を閉じたままサキが言った。
「来て」
九一はベッドに潜り込んだ。
サキの顔は暗くてよく見えなかった。
突然キスをしてきた。
これが九一のファーストキスだった。
舌が入り込んだ。
二人は舌を絡めた。
九一はサキのバスローブに右手を入れて胸を揉み、乳首を舌先で舐めた。
サキの口から吐息が漏れた。
九一はサキの上になり、バスローブを脱がせた。暗がりに見えるのはサキの体の輪郭だけだった。美しい曲線を描いていた。
すると伸びた長い足から下着を脱がせた。
大きく開かられた股間に顔を近づけた時、これまでの短い人生で最大の衝撃が九一を襲った。
大きく開かれた足の間でペニスがそそり立っていた。
(つづく)
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