Barber’s Trap3
「うちのお客さんだ」
店主はマンゴーの写真を見て言った。
来た。
くじに当たった。
敷島は深呼吸をして興奮を鎮めた。
「こいつは暗殺集団「殺家ー」の一員だ」
「サッカー?」
「暗殺をビジネスにしてる連中だ」
「暗殺を…」
店主の顔が引き攣った。
この店のダーティな雰囲気にも関わらず、暗殺ビジネスというものが存在するなど信じられない様子だった。
まして常連客がその一員であろうとは。
「報酬を得て殺人を請け負う。そんな組織がこの街には存在するんだ」
店主は無言になった。
あまりの衝撃に言葉を失うのは自然なことだった。
「知ってることを教えてほしい」
すぐには返事ができなかった。
恐るべき現実を受け入れるのに時間がかかった。が、やがて立ち上がると、入口脇のレジカウンターに向かった。
しゃがみ込んでレジ下に収納されたファイルの中から一部を引き抜き、戻ってきた。
敷島に差し出した。
「顧客のカルテです」
そこには名前、来店日、提供したサービス、髪質、頭部の特徴の他、少ない会話で得たに違いないプライベートな情報が記されていた。
名前はアサド・マジュムダールとあった。
敷島にとってその名前は文字の羅列に過ぎなかったが、それでも正体に少し近づいた気がした。
陽気な性格。
拙い日本語ながら大きな声でよくしゃべる。
餃子が好物。
来店時は黒いスーツが多い。
ウィスキーは飲まないし、葉巻も吸わない。
来店日の履歴を見ると月に一度はきっちり訪れている。毎月おおよそ25日ごろだ。
今日は10月22日。
履歴によると最後に来たのは9月25日。
「今月はまだ来てないね」
「25日で予約いただいてます。」
3日後だ。
敷島は決めたかった。
殺家ーの掃除屋、マンゴー=アサド・マジュムダールを捕まえたかった。
「協力してくれるか?」
「何をすれば?」
(つづく)
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