ベリー兄弟


弁護士レモンとの電話を切ると、ボスは再びソファに体を沈めた。葉巻に火をつけ、煙を燻らせながら、天井を仰いだ。やがて、まぶたを閉じ、メンバーの顔を1人ずつ思い浮かべた。


犬がいる、というのはボスの仮説に過ぎない。

が、犬がいると考えない限りグレープ逮捕はあり得なかった。サツがたまたま居合わせたからと言って逮捕できる男ではない。正確な情報に基づき、綿密な計画を立て、それを遂行できる優秀な警官が束になってかからない限り殺し屋グレープを逮捕できるはずがない。

ジョン・ランボーを交番のお巡りさんが逮捕できるだろうか? 

カエルが毒蛇を呑み込むことなど?


じゃあ、誰が犬なのか?

まぶたの裏で暗殺部門に属するメンバーの顔を1人ずつ思い浮かべたが、全く検討がつかなかった。

ボスは目あきらめてを開けた。

葉巻を灰皿で揉み消すと、組長室の外に向かって声を上げた。


「入れ!」


扉が開いて、待機していたベリー3兄弟が入ってきた。


ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー。

ベリー3兄弟と言っても本当の兄弟ではなかった。

単にボスがそう名付けただけだった。

堂本兄弟や叶姉妹のノリだが、ボスとしては3人組アイドルイのイメージだった。


俺は裏社会の秋元康だな!そう豪語して一人笑っていた。


3人は入り口に並んで直立した。

3人とも黒いスーツに細いネクタイを締めている。グレープと同じ暗殺部隊のユニフォームだ。


向かって左、一番長身のストロベリー。

身長は190cmに及ぶ。

チョコレートが大好きなため虫歯で歯医者に通院中。それ以外は特に問題なし。どちらかと言えば優秀な殺し屋と言える。グレープに次いで「殺家ー」ナンバーツーの実力を誇る。


真ん中に立つのはブルーベリー。

彼は中学生で中毒になったシンナーがいまだにやめられなず、ほとんどの歯が溶けていた。おかげで歯医者とは無縁だった。

シンナーでラリっているためまともな判断が出来なかった。

だからこそ殺し屋になったと言える。

まともな判断を下す奴はそもそも殺し屋になどならない。


最後に向かって左、ラズベリーは酒入りのフラスコを常に持ち歩いていた。アル中だった。

ときに足元がおぼつかないながらも、酔った勢いで人を殺した。


ボスは三兄弟にソファをすすめた。

消したばかりの葉巻を手に取り再点火した。

煙を吐き出すと言った。


「グレープがパクられた」


三兄弟「マジっ!?」


ボス「詳しいことはまだ分からん。グレープがサツに連行されるのをマンゴーが見たそうだ」


ストロベリー「グレープがパクられるなんて信じられませんね」


ボス「まったくだ。しかし、サツに面がわれた以上、あいつはもはや使いものにならん」


ラズベリー「ということは?」


ボス「わかってるだろ?」


ストロベリー「まさか…」


ボス「そうだ。始末するしかない。これは俺の勘だが、恐らくサツはグレープが『殺家ーサッカー』のメンバーであることを知っている。口を割らせて俺たちを一網打尽にするつもりだ。」


ストロベリー「奴はしゃべらんでしょう」


ボス「可能性はゼロじゃない。1パーセントでもあれば排除するのが俺のやり方だ」


ストロベリーはボスが何を言いたいのか薄々感じていた。


ボス「グレープの件はお前たちに頼みたい」


やっぱり・・・と内心つぶやくストロベリー。


ボス「この件については追って指示する。今日はもう帰っていいぞ」


「お疲れ様です」


三兄弟は頭を下げて事務所を後にした。

俺たちにグレープを始末できるだろうか、ストロベリーは思った。

「殺家ー」随一の殺し屋を殺すなんて、そば屋にカップ麺を配達するようなもんだ…

ストロベリーの背筋を冷たい汗かつたった。

(つづく)

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